第4話 キスの件があって照れくさいけど

僕と両親は狩野さんと一緒に狩野さんの家に行くことにした。

狩野さんは帰るのを嫌がったが僕たちが説得したら渋々家に帰ることを了承した。


「ピンポーン」


僕のお父さんが狩野さんの家のチャイムを鳴らした。


「こんな遅くに何の用ですか」


不機嫌そうな女の人がインターホン越しに答えた。

もう夜の12時を回っていたから当然だ。


「私はまゆさんのクラスメイトの佐藤広樹の父です。」


「そのクラスメイトのお父さんが何の用ですか?」


「うちの息子がお宅の娘さんと家出をしました。さきほど二人を発見したので娘さんをお連れしました。」


「ガチャ」


ドアが開いて狩野さんのお母さんが出てきた。

顔は狩野さんに似ていて目が大きく鼻筋がすっきりしている。

世間一般では美人と言われる顔立ちだろう。


狩野さんのお母さんからはアルコールのにおいがプンプンする。

パジャマのままだ。パジャマは今慌てて着たみたいに乱れていた。


狩野さんのお母さんが開けたドアから家の中が見える。

家の中は相当散らかっているようだ。生ごみのような臭いもする。



「あら、まゆ、どこか行ってたの?」


狩野さんのお母さんは娘が家にいなかったことに気づいてなかった。


「お父様はご在宅ですか。」


僕のお父さんが尋ねるとヘラヘラした若い茶髪の男がたばこを吸いながら出てきた。


「この人がまゆの父親です。」


僕たち親子は言葉をなくして暫く2人を見ていた。


「今日はもう遅いのでまた後日お伺いします。それでは失礼します。」

僕のお父さんは言った。


僕たちが立ち去ろうとすると狩野さんのお母さんは狩野さんの頭を叩いた。

それは僕のお父さんが僕を殴った時と明らかに違っていて何の感情もこもっていなかった。


狩野さんは少しよろけて地面に膝をついた。

めくれたスカートから複数のあざが見えた。


僕たちがドアの前に立ち尽くしていると閉められたドアから声が聞こえてきた。


「今日はどんなお仕置きをしようか。」

男の楽しそうな声が聞こえる。


「そうね、どうする?」

狩野さんのお母さんの楽しそうな声も聞こえた。


僕たちはその会話から狩野さんの家庭環境を理解した。


帰り道にお父さんとお母さんが何か難しいことを話し合っていた。

僕は疲れと空腹で2人が何を話しているのかわからなかった。

僕の頭の中には今日の出来事がぐるぐると回っていた。



次の日僕が学校に行くと狩野さんは学校を休んでいた。


後日聞いた話によると僕のお父さんが狩野さんのことを児童相談所に相談したようだ。

その日のうちに相談員は狩野さんの家に訪問して狩野さんは施設に保護された。

落ち着いたら狩野さんは学校に来るらしい。


狩野さんは似た境遇の仲間が欲しかったのだろうか?

狩野さんは僕の境遇が自分よりも不幸だと思ったのだろうか?

狩野さんは僕に助けを求めたのだろうか?



家出をして僕は親子には血の繋がりが重要ではないことを学んだ。


僕が両親と喧嘩をしないのは両親が同情しているわけではなかった。

僕が両親の言いつけを守っているから怒られない。

僕はテストで80点以下をとったことがないから勉強のことで怒られない。

ただそれだけだった。



とにかく狩野さんが学校に来たら声をかけよう。

そして友達になろう。


キスの件があって照れくさいけど・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕は愛されていない? @kkkkk_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ