狩人
「いいか、女は撃つなよ。ペナルティ、百万だからな」
「わかってる」
「俺はむしろ、ハンティングの後が楽しみだぜ」
そう言いながら若い三人の男はゆっくりと歩いていた。
ここはAF国にある林の中。
深夜であり、夜行性の動物以外は静かに眠っている。
それは都会とは無縁な原住民と呼ばれる者たちも同様で、一部族三十人ほどが、それぞれ、草木を組んで作られた昔ながらの家で寝息をたてていた。
一方、三人の男は迷彩服姿であり、その手にはサプレッサーが着けられたサブマシンガンがあった。
しかも、ヘルメットにある暗視装置は最新式の物で、それを見れば特殊部隊のように思えるが、三人は大国AMに国籍を持つ大学生である。
ともに富豪と呼ばれる裕福な家庭に生まれ、思いつく限りの遊びをしているのだが、その一つにハンティングゲームがあった。
その対象は人であり、いかに気づかれず殺害していくか、ということをルールに楽しんでいた。
気づかれれば殲滅ルールに変更し、乱射によって皆殺し。
ただし、女に対しては捕獲して交わるという、ご褒美設定も盛り込まれていた。
当然、法治国家でそれをすれば外国人であろうと逮捕されてしまうが、法の及ばない場所に住んでいる人間なら可能だと、遠路はるばるやってきていたのだ。
武器調達から死体処理まで、金で雇った専門の者がいるため、三人はとにかくハンティングを楽しむだけでよかった。
「──なんだ? あの丸いの」
小道を歩いていくと、その真ん中に直径二十センチほどの大きさをしたボール状のものがあった。
毛のない生き物のようなかんじで、目や口はなく、小さく膨らんだり縮んだりして静かに呼吸をしていた。
するとそのボールは一瞬、一部分だけが大きくなったかと思うと、何かを飛ばした。
「いてっ!」
「痛っ……」
「ぐっ」
空気圧で飛ばした小さく硬いものは男たちの顔面に命中したがフェイスガードをしているため、傷を負うことはなかった。
しかし、男たちを苛立たせるには十分だった。
「ふざけやがって……」
一人がサブマシンガンを構えたが、それを察知したかのように、ボールは木々の中へ跳ねていった。
「くそ、逃げやがった」
「ムカつく」
「おい、先にあいつを仕留めようぜ」
「ああ」
「同感だ」
「蜂の巣にしてやる」
男たちはいつでも撃てるように構えながら林の中へ入っていった。
三十センチほどの太さをもった木々が間隔をおいて生育しており、草の葉もそれほど伸びていないため、隠れながら移動するのはリスなどの小動物でなければ不可能だった。
「いた!」
暗視装置のおかげですぐに見つけると、男たちは引き金を引いた。
サプレッサーの効果で、きわめて低い銃声をあげながら弾丸が放たれるが、ボールは器用に動いてそれらをかわしていき、深い茂みに入った。
「へ、それで隠れたつもりかよ」
そこへ集中的に撃ちこむ男たち。
細長く上へ伸びた葉はちぎれとび、破片がまき散らされた。
「やったか」
「たぶん」
「俺、見てくるわ」
装填分の弾丸を使い切り、マガジンを交換しながら言うと、一人が
様子を見るべく構え直して、ボールがいた茂みへ向かった。
ゆっくりと慎重に近づき、そして、茂みの裏側にきて銃口を向けた。
「あ、あれ? いねえ」
見るとそこにボールはなかった。
「いない?」
「でもそこからは何も出ていかなかったぞ」
「だが実際になんもねえ。どういうことだ」
「熱源探知と併用しよう。そうすれば分かるかもしれない」
「だな」
「よっしゃ」
三人ともスイッチを押して、可視光増幅と併せて熱源探知も機能させると、周囲を見回した。
さきほどまでは分からなかった生き物の存在が見えるようになったが、目指すボール状のものは見当たらなった。
「くそ、どこへ行きやがった」
一人が呟くように言うと、右足に何かがぶつかった。
「なんだ?」
確認のため視線を下げると、そこに目当てのボールがあった。
「!?」
驚く男にかまわず、ボールは跳びはねて体当たりをした。
「っぐ……」
至近距離からサッカーボールで腹を蹴られたような衝撃を受け、男は
「ジョン!?」
「うそだろ、くそ!」
無力化された仲間を見て、すぐさま銃口を向ける男たち。
だが、丸い形で熱源反応している異様な生き物から地面を這うように細長いものが伸びると、その一人の左足に絡みついて引っ張った。
「!」
背中から勢いよく転倒し無防備に倒れたことで、叩きつけられたのと同等の損傷を受けた。
「ケビン、おい!」
「う、うう……」
苦痛の声上げるのが精一杯で、男は起き上がれずにいた。
「あの野郎!」
残った男はあらためて引き金を引こうとするが、その目標はすでに目の前に迫っていた。
「ぶへっ」
シュートしたボールを顔面に受けたような威力を受けて、その男もまた脱力して仰向けに倒れた。
男たちが全員、無力化されると、ボールから伸びた細長いものが木の枝を経由してその足に絡みつき、一束にして引っ張りあげると、三人は両手をだらりと下げたかたちで逆さ吊りとなった。
本来であれば腹筋で起き上がり、ナイフで細長いものを切って逃れることも可能であっただろうが、痛みによって力が入らなかった。
「どう? 刈られる側になった気分は」
そう言いながら、男たちの前に一人の少女が現れた。
肩までとどく黒髪を左側に垂らすサイドテールにした、十歳くらいの少女は両腕が透けた黒いワンピースを着て、紅い瞳で男たちを見上げた。
「な、なんだよ、お嬢ちゃん」
状況が飲み込めないまま、一人が口を開いた。
「私? 私はエフ。死神よ」
「し、死神? それにしちゃ、ずいぶんとかわいいじゃねえか」
「容姿は関係ないわ。あなたたちは既に罪もない人を三十一人殺害し、二十四人の女性を犯したうえに薬物投与で精神崩壊させている。その罪を償ってもらうわ」
「罪を、償う?」
「そうよ。あなたたちがやったことを、あなたたちが体験するのよ」
すると吊られている男たちの真下にボールが現れ、天に向かって花が咲くように中心から外側へ開いていった。
「な、なんだよ、これ」
「ああ、その子はヴィー。内臓だけでできた精獣、オルガンズボールよ。ちなみにいまあなたたちを吊ってるのはヴィーの小腸」
「は? え? は?」
分からない言葉が続いて動揺していると、開いたボールの奥から人と同じく並んだ歯が現れ、上下に展開した。
同時に男たちを吊っていた足は解放され、重力に従って落下。
物理法則を無視して、三人の男たちはボールの口へ飲み込まれていった。
終了と言わんばかりに、ボールは再び閉じていき、小腸もシュルシュルと収納された。
「おいで、ヴィー」
声に反応して転がってきたボールを、少女は両手で持ち上げた。
「ごめんね。今回は防げたけど、もっと早くに来られれば死ぬ人も少なかったよね」
呟くように言うと、少女はボールと一緒に消えていった。
──数日後。
AM国にある高級マンションで奇妙な男性の死体が発見された。
その死体は三十一人の人間を殺害できるだけの何百発という弾丸を全身に撃ち込まれ、その股間は二十四人の女性が踏みつけたかのように潰れていた。
セキュリティに異常はなく、部屋もロックされた密室でのことであり、しかもそれが別の場所で三体見つかったということで、警察の頭を悩ませた。
だが、一部の者はこう言った。
いずれ悪いことをしたからこうなったのだ、と。
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