ルーシーは赤ソーセージの夢を見るか?

euReka

ルーシーは赤ソーセージの夢を見るか?

 ぐにぐにと赤ソーセージを穴に突っ込む作業をしていたら、キンコンと鐘が鳴った。

 僕は指を穴からぬいて息をつき、足元のリュックから弁当箱を取り出す。

「愛するあなたへ」

 弁当包みに挟まれた手紙の冒頭は、いつもその言葉で始まる。

「今日のお弁当も赤ソーセージだけど、ブロッコリーと卵が手に入ったから、とてもよい色どりになりました。昨夜はあなたとけんかして嫌な気分になったわ。でも朝になったら、やっぱりあなたのことが好きだと気づきました」

 僕はその手紙を無表情で読んだあと、弁当箱を開いて、冷えた弁当をガツガツと食べる。

 その手紙はルーシーが書いたものだが、ルーシーというのは空想上の女性なので、僕がいつも代筆している。

 もちろん弁当も、空想上のルーシーが作ったものを毎朝私が再現しているものだ。

「こんなこと言いたくはないけど」

 同僚のニコラス二世は、僕の肩に手を置きながらそう話し掛ける。

「それって全部自分でやってるだけだよね」

 ニコラス二世は、職場で唯一仲良くなった奴だが、昼休みの僕の行動が理解できないようだ。

「まあ、お前がそれでいいなら別にいいんだけどさ。毎日赤ソーセージを穴に突っ込む仕事をしているせいで頭が変になったんじゃないかって」


 僕は空想上のルーシーと結婚して、何となく幸せな気分のまま赤ソーセージを穴に突っ込む仕事を続けていた。

「ニコラス二世は今度結婚するんだってね」

 ルーシーは、空想上のベッドの中で僕にそう話し掛ける。 

「あたしがあなたと一緒に結婚式に現れたら、彼、きっとびっくりするわ」

 ははは、そうだね。

「そしたら、あなたがただの変人じゃないって、彼に証明できるのにな」


 ニコラス二世の結婚式に招待された僕は、花嫁衣裳の新婦の顔を見て腰を抜かした。

 彼の横に立っているのは、間違いなく僕のルーシーだったからだ。

「え、ルーシーってお前の空想上のあれだったの? ただ似てるだけとかそういう……」

 僕は頭が混乱したままよろよろと起き上がり、ニコラス二世をとりあえず一発ぶん殴ったあと、ルーシーの細い腕を掴んで式場から飛び出した。


 僕とルーシーは、見知らぬ土地で何とか住み家と仕事を探し、半年後には子どもが産まれることになった。

「この子はたぶん、ニコラス二世の子どもだと思うの」

 僕は赤ソーセージをナイフで百等分する作業をしながら、ニコラス三世にいつか自分が殴られる日のことを空想していた。

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