第7話 知る二人

 ノエルは初めて地下牢にきた。

「ノエル! よく来てくれた! 鍵を、持ってきてくれ!」

「……ノエル? お母さまのことそんなに嫌いなの?」

 牢の二人は口々に話しかけた。食事を差し入れられる時以外は基本二人きりだ。ののしり合いも疲れてしまっている。


「セレスタンは少しおかしいんだ。だから私をここから出してくれ、父上を助けてやろう」

 ノエルは牢の前に立って二人を見る。

「こんないい環境なのに文句言うの?」

「馬鹿な事を言ってないでさっさとここから出せ!」

前侯爵が怒りを抑えられずに怒鳴った。

「たかだか数日牢に入っただけじゃないか。俺なんか、家族と恋人に騙されて、冤罪かけられた上に切られて崖から突き落とされて死んだんだ。よく知ってるだろうけど」

 アマリアと前侯爵は真っ青になった。


「だ、誰から……聞いたの? ノエル……そんな話、誰が?」

 アマリアは震える声でノエルに聞いた。

「……俺なんかって……どういうことなの?」

「ノエル! 訳の分からないことをいうんじゃない。どうせセレスタンが言ったんだろうが、お前の父こそが弟を殺した罪人なのだ! 自分だけ逃れようとしやがって! ノエル! 早く出してくれ、頼む」

 前侯爵は悲痛な声で叫んだ。

「お前が俺を殺すように命じたんだろう。俺はお前を絶対に許さない。アマリア、兄上と結婚して幸せだったか?」

「まさか! ……リュ…カ? リュカなの⁈」

「馬鹿な!」

「もう会うこともない。じゃあね……アミー」

リュカしか呼ぶことのなかった愛称でアマリアの名を呼び、ノエルは牢を後にした。


 後ろからアマリアの慟哭と前侯爵のわめき声が聞こえたが、もう振り向くことはなかった。

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