第8話 そして父

ノエルとセレスタンが一緒に階段を上っている時、アッと叫んでノエルが階段から転げ落ちていった。

「ノエル!!」

 医師を呼べとセレスタンが叫び、使用人も集まり大騒ぎとなった。

 駆けつけた医者が診察していたところに来客があった。


「忙しい、引き取ってもらえ!!」

 セレスタンは執事に怒鳴った。

「しかし、旦那さま。王宮騎士第三部隊の方が事情聴取に来られておりまして……」

「事情聴取⁈ なんのことだ? とにかく今はそれどころではない!」

 しかしハンナに伴われて現れた二人の騎士は難しい顔をして

「遅かったか……これよりすべて我々が記録し、証人となる。まずはその子の安全確保と治療だ。状況が分かり次第、その子は我々の保護下に置かれる」

「どういうことだ⁈ ええい、とにかくノエルを助けてくれ! 先生!」

 階段下で意識なく横たわっているノエルを医師が診る。

 幸い、大けがはなく意識を失っただけだろうとノエルは部屋に寝かされ、ハンナが側に付き添った。


 セレスタンは応接室で騎士二人と対応し、憤っている。

「私がノエルを突き落とした? そんな馬鹿なことあるわけがないだろう!」

「だが、その子から助けを求められて我々が事情を聴きに来たのだ。来てみたらこの騒ぎだ、何もないわけがないだろう」

「ノエルが助けを?」

 セレスタンは全く訳が分からない。


「メイドが坊ちゃまを助けて欲しいと訴えてきた。坊ちゃまから騎士を呼ぶように頼まれたとな。今、応援を呼んでいる。もう少し待ってもらおう」

 セレスタンは、牢に妻と父を入れていることが知られてはまずいことになると焦った。

「今は息子が心配だ。逃げも隠れもしないが、明日にしてもらえないか」

「証拠隠滅や逃走の可能性がある以上、ただちに我々の監視下に入ってもらう。あなたもこの部屋から出るときは我々が付き添うからそのつもりで」

 セレスタンは身動きが取れなかった。

 調べられると牢の父と妻の事がばれ、前の事件の事も表ざたになるかもしれない。セレスタンは頭を抱えた。


 そして同じく、応接室で震えるように座っている前侯爵夫人。

 ノエルもセレスタンもその復讐の魔の手に襲われてしまった。残っているのは自分だけ、孫の事も心配だが自分の身に起こるこれからを思うと恐ろしくて体が震えた。


 しかし、ノエルは前侯爵夫人にはこれ以上直接何もするつもりはなかった。前世で可愛がってくれなかったが、それだけだったから。

 ただ勝手に恐怖心を募らせればいい、それが復讐だった。

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