第6話 次は祖母?

「今度は前侯爵様まで……このお屋敷で何がおこっているのでしょうか」

 ハンナはため息をつく。使用人たちには詳細は知らされず、ただ罪を犯し幽閉されることになったと聞かされただけだ。

「僕、怖い。僕も牢屋にいれられるのかなあ」

 ハンナはノエルを抱きしめると

「大丈夫ですよ、坊ちゃまは何もしていないのですから」

「でも……母上もおじい様も牢屋にいるよ? 母上もおじい様も何もしていないのに」

「私にはわかりませんが……坊ちゃまは大丈夫な事だけは私が保証します! いざとなったら坊ちゃまを連れて逃げてあげますよ、だから安心してくださいね」

「ありがとう、ハンナ。僕、ハンナ大好き」

「私も坊ちゃまの事大好きですよ」



「ノエル、今日は一緒にご飯食べましょう? もう怖いお母様もいないわ」

 前侯爵夫人はハンナと一緒に庭で遊んでいるノエルに声をかけた。

 ハンナは立ち上がるとスッと頭を下げる。

「もう、ハンナ途中でやめちゃ駄目だよ。ちゃんと座って続きしよう」

「お坊ちゃま、大奥様がいらしてますわ」

「……」

「ねえ、ノエル」

 前侯爵夫人が近づき、ハンナは控えるしかない。

「……もういい。僕、お部屋帰る」

「あ、坊ちゃま!」

 ハンナは頭を下げてノエルを追いかけた。


 その日からノエルは前侯爵夫人を避け、無視するようになった。

 前侯爵夫人は背筋が凍るような嫌な予感がした。


 次は自分?


「次」ってどういうこと……自分で思っておかしくなった。

 別に順番に狙われているわけではないのに。

 そう思ってはっとした。リュカなら……リュカなら私たち家族を恨んで全員に復讐するだろう。もしあの子の魂が憎しみに囚われてこの世にさまよっていたら。前侯爵夫人はその復讐を受け止めるしかないのだとそう思った。




 ノエルは真夜中に庭に立ち、屋敷の真っ黒なシルエットを眺めていた。

 奇麗に消し去ろう、サンテール家などこの世から無くしてしまえばいい。

 この世界に何の未練もない、あるのは恨みだけ。生きている意味もない、苦しいだけのこの世界と記憶。

 一緒に自分も消えてしまおう。

 明日の夜、父も牢屋に入れ、ランプの油を屋敷に撒いてすべて無に帰そう。報われなかった自分の人生の弔いの炎だ。

 その光景を思い浮かべ、悲しい笑顔を浮かべた。


「坊ちゃま! どうしたのですか⁈」

 ハンナが走ってきて、冷え切った体に温かいブランケットをかけてくれた。

「……どうして?」

「お夕食時、元気がなかったように思いました。だから心配で気にかけていたのです」

「そっか……ハンナは優しいね。」

「坊ちゃまの事大好きですから! 前も言いましたけど、悩みがあったら私にお話しくださいね。何もできないかもしれないけど一緒に頑張れますから」

「ハンナ」

 ノエルはハンナにぎゅっと抱きついた。

「屋敷に戻りましょう。暖かいココアお入れします」

「うん。ありがとう」

ノエルは心まで温まった気がした。

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