第4話 過去世
供を一人だけつけたリュカは、野盗が出る危険で険しい道を辺境に向かって馬で駆けていた。
辺境伯が治める土地で禁断の薬を栽培し、各国へ輸出していた組織が摘発された。
その時、サンテール家の関与が浮上し、次男のリュカの名が挙がったのだ。
婚約者のアマリアをはじめ友人たちはみんな信じてくれたが、家族はリュカに疑いの目を向けた。
リュカは子供のころから、両親に兄との扱いに差をつけられていた。要領がよく両親に取り入るのが上手な兄、それに比べて気を遣い甘えるのが苦手なリュカは冷遇されていた。勉強を頑張っても剣技を頑張っても褒めてはもらえなかった、ただ親にとって可愛げがなく相性が悪いというだけで。
しかし、学校ではその人柄から慕われ信用されて友人はたくさんいた。親の育て方のせいで何事も自分の方が優位にならないと気がすまない兄は、友人が多く慕われていたリュカの事が気に入らなかった。
だから疑いがかかった時、兄は自分が優位に立つためリュカを糾弾した。
調査は一向に進まず、リュカの悪事を決定づける証拠が出ないかわりに、無関係だと証明することもできなかった。巻き込まれたくないからと多くの友人たちが一人、また一人と離れて行った。
そして……アマリアが兄と結ばれた。二人には、リュカの事でお互いに憔悴し、慰め合ってこうなった。お前のせいだと責められた。
リュカはすべての人間が敵に見えた。打ちひしがれて、疑いを晴らす気力もなくなりかけたとき、日頃冷たい父親から声がかかった。
辺境伯のもとへ行き、顔合わせをして来いと。リュカとされている首謀者は辺境伯領に何度も出入りをしていたそうだ。その目撃証言とリュカが違う人物だと証明してくればすぐにでも疑いが晴れるのではないかと珍しくアドバイスをしてくれた。
そして無実を証明するため険しい道を馬で駆け、休憩していたところ唯一の供が切りかかってきた。
「何を!」
「可哀想に。辺境伯で禁止薬物を製造していたのはあんたの父親と兄貴さ。全ての罪をあんたに押し付けて殺そうとしてるのさ」
「そんな! うそ……だ」
「旅の途中で殺すよう命じられている。辺境伯にはあんたが罪の意識で自決したと報告済だろうさ」
「そんなひどい……」
「あんたが可哀想だとは思うけどこれも仕事なんでな」
剣で切りかかられ、リュカはあっけなく崖の下に落とされた。
あいつらを絶対許さない―――その思いを最後に意識を失った。
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