3-6 姉妹
修復され元通りなったこの邸のように、あの日の傷痕が消えるはずはなく、心の奥深くに刻まれた闇を振り払うために、朝から晩までほとんどの時間を修練に費やすようになった
そんな姿を隣でずっと見ていた
そんな中、宗主であり母である
「
「ホントに⁉ やったぁ!」
迫力美人で、全体的に冷たい雰囲気を纏っている
「
「····はぁい。ごめんなさぁい」
「そういうことだから、
「はい、母上。
生真面目に座ったまま拱手礼をし、
もちろんそのことは他の一族にも伝わっているだろうし、あまり表立って目立つ行動は避けたいというのが本音だろう。
民たちからは同情の声も多いが、被害を受けた者たちは複雑な気持ちだろう。
しかし、少女たちがバラバラにされて繋ぎ合わされ、傀儡とされていたこと。その事実は伝えられていない。しかも被害者の親族たちはひとり残らず無惨な姿で殺されてしまい、訴える者もいなくなってしまったため、その罪の在り処が曖昧になってしまったのだ。
都を恐怖に陥れた病鬼の件に関しては、宗主自ら動いていてくれていたことを民たちは知っていたので、
それでも、守るべきはずの民を
都から西へ進むと、竹林の中に整えられた大道があり、その先に
ふたりはそこで各々修練を行い、時に手合わせをする。弓と槍。お互いに扱う武器が異なるので、その時ばかりは
(うむうむ。今日も麗しい姉妹の姿が見られて、
そんなふたりの様子を
本来、ひとの前にほいほいと現れていい存在ではないのだが、彼女は人間が好きなのでこれが普通なのだ。なにより可愛い女子を眺める趣味もあり、眼福眼福~と顔が緩む始末。
(
猫耳幼女はごろんとあたたかい屋根の上で何度目かの寝返りをうつ。肩の辺りで切り揃えられた真っ白な髪の中に、左右ひと房だけ黒い髪が混じっており、その頭の天辺には白いふさふさの猫のような耳が付いている。
指先が見えないくらいの袖の長い白装束を纏い、首に赤い紐飾りを結んでいて、そこにぶら下がっている金色の鈴が動く度にリンと鳴った。その音は普通の人間には聞こえることもない。
ゆらゆらと白と黒の模様が入った尻尾がご機嫌そうに揺れている。この地を覆う、神子が施した白虎の陣も今のところ問題ない。
「ねえねえ、
右のひと房だけ三つ編みにしている、癖のある肩までの薄茶色の髪の毛。両耳にはお気に入りの赤い椿の耳飾りが飾られている。
その性格は明るく、好奇心旺盛。
そんな妹とは正反対の姉、
「そうだな。逢うことがあれば、手合わせ願いたいものだ」
(いや、いいんじゃよ。でももうちょっと、こう、恋愛要素での嬉しいの意味合いが欲しいというか····う〜む。まあ、この娘はこういう娘じゃったな)
あの時の様子から考えて、そういう方向に向かうのは期待薄といってもいいだろう。
「うんうん、楽しみだね! 私も
「まだ逢えるとは決まっていない。けれども、仙術大会は他の一族の術士たちと全力で競い合う、唯一の機会。実力を試せる場所。そういう意味では、私も楽しみだな、」
その表情は無に近いが、月のように冴え冴えとした灰色の瞳の中に、珍しくキラキラと光が瞬いているように見える。
右目の下にある小さな
左右ひと房ずつをそれぞれ編み込み、後ろで残りの髪の毛と一緒にひとつに纏めたところに、紫色の小さな花がふたつ付いた簪で飾られている薄茶色の髪の毛。
十六歳の
「母上も気を遣ってくれたのたろう。私がいつまでも姉上のことを引きずっているから。他の者たちではなく
「だったら、余計に楽しまないと!」
「休憩は終わりだ。さ、始めようか」
「うん! 全力でいっくよ~っ」
絶対に忘れることなどない。
あの優しい笑みを。ぬくもりを。声を。香りを。
自分たちには強くて素敵な、自慢の姉がいたという事実を。
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