3-5 四天
伏魔殿。
薄暗く冷たい空気が漂う陰気な場所に集った四人は、玉座を前に跪き、そこに立つ者に対して各々想うところがあった。
邪神に蝕まれし始まりの
彼らは神子から生み出されたという事実を伏せられたまま、あの日あの場所に存在していた邪神や妖者と共に封じられていたが、十五年前に目覚めた後、邪神と取引をしてその配下に下った。
黒曜がなぜ消えてしまったのか、それが本人の意思であったこと、神子がそれを叶えるために自身の魂ごと伏魔殿に封じたその真実を、彼らは知らない。自分たちが邪神に利用されているだろうことは、少なからず理解している。
それでも可能性があるのなら、自分たちの主を取り戻す。そのためだけに従っているのだ。
傀儡使い、春の天、
蟲笛使い、夏の天。
妖獣の中でも妖蟲を操る力を持つ。
幽鬼使い、秋の天。
幽鬼を操る力を持つ。
妖鬼使い、冬の天。
現在、特級の妖鬼である
「
繊細な蔦の模様の漆黒の飾り縁が付いた、長方形の灯篭を手に持ち、青い鬼面を付け黒衣を纏った青年が彼らの前で告げた。
空いた玉座に座るでもなく、その横に立ったまま、
『青龍との契約を終えれば、神子は完全な神子としてこの世に存在することになる。お前たちの主である
直接頭の中に響く邪神の声。
主である
その意味を、理由を、彼らは知らないのだ。
『完全な存在となった神子を奪い、俺のものにする。そして再び今生に
その言葉に、
(それは、はたして私たちの望みといえるのかしら? 私たちが望んでいるのは
当初の話とは少し違うことに気付いたのは、
(邪神は今はあんな状態だが、災厄の神であることに変わりはない。今、この場で馬鹿みたいに取り乱して、自己主張したところでなんの意味もないし、そんな間抜けは俺たちの中にはいないっての!)
黒衣を纏う
そんなことになっては本末転倒。なんの意味もなくなる。
(ああ、はいはい。そういうことですね。まあみんなも動く気なさそうですし、だったら私がなにかすることもないってことです)
邪神のことなど最初から信用すらしていない。ひとつの可能性のために従っていただけだ。それが完全に無とわかれば、次に自分たちがとる行動は示し合わせずとも合致していることだろう。
(だがまだ可能性の話でいえばないわけではない。神子の力次第では砕け散った魂ごと呼び戻せる奇跡もあり得る。そのためには直接あの神子に会う必要がある)
あの時、神子が言った言葉の意味。真意。
「君たちは何も知らないんだね。いや、都合の悪いことは何も語らず、利用できるものは利用する。それが、邪神のやり方なのかな?」
対峙した
その本当の理由さえ、知らないまま。
目覚めた時、半身を失ったかのような喪失感を覚えた。他の三人も同じだったようで、それが主であった
「私たちの目的はそれぞれ違いますが、己が目的のために手を組むのは悪い提案ではありません。その先がいつか
青い鬼面に覆われたままの青年の表情は、
「
その後、今回の件での各々の動きを確認し、解散する。伏魔殿には
(あの邪神の目的は自身の器となる身体を取り戻し、神子を我が物とすること。復讐やこの国をどうにかするというわけでもなく、ただそれだけ)
その闇は光を強く求めるくせに、すべてを覆い尽くすだろう。
言葉は要らない。
望むのもの。
求めるのは、自分たちの存在意義。
ただそれだけなのだと。
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