3-4 金虎の第二公子
ひと月前。
先月で十九歳になった
宗主になるためにさまざまな努力をし、母である
それは自分が血の滲むような努力をし、公子として術士として日々務めているというのに、
「
「わかっている」
第一公子、第二公子には専属の護衛がおり、いずれも術士としても優秀な者がその役目を担っている。羽織を几帳面に整え、こちらを見上げて小さな笑みを浮かべた自分よりも頭ひとつ分は背の低い彼は、ふたつ上の二十一歳。いつも平静で穏やかな表情の青年なのだが、その武芸の腕は自分に次ぐほどの実力者でもある。
従者は黒を纏うのがこの一族の決まりだが、公子付の護衛が纏うものは特別で、黒を基調としているのは同じだが、襟首に近い上の方に太陽のような白い模様が描かれた衣を纏っている。
色素の薄い紫苑色の瞳。名を
第一公子である
「この時期に呼び出されたということは、やっぱり
「
「今年はどうでしょう。まあ、
「あいつはそういうの興味ないだろ。あれ以来一度も参加していない」
白群の第一、第二公子は群を抜いており、誰も彼らには敵わなかった。今でもその順位は変わっておらず、
「俺も今年は参加しない」
「そうですか、残念です」
歩きながら、他愛のない話を交わす。
いつまでも自分が参加枠をひとつ奪っていては、他の術士たちが育たない。
廊下を歩いていると、唐突に宗主付きの従者が目の前に現われ、
(いつも思うが、この爺さん、只者じゃないな····)
本邸はとても広く、知らない者はもちろん、来て間もない従者は必ず迷う。それくらい部屋の数も多く、入り組んだ廊下やわざと迷わせるための工夫がされてある。同じような通路がいくつもあって、そのどれかは行き止まりだったりするのだ。
宗主や本妻である
目の前の背の低い高齢の従者。気配もなく現れた老巧な従者に、
「こちらへ。宗主がお待ちです。お付きの者も共にと、許可はいただいております」
しばらく薄暗い廊下を右へ左へと曲がり、ふたりはやっと扉の前に導かれる。老人はそれ以上先には行く気はないようで、
「来たか。そこに座るといい」
威厳のある眼差しで、
「ふたりを呼んだのは、他でもない、今年の仙術大会のこと。それからもうひとつ、重要なことを伝えるためだ」
「今回の仙術大会の代表者の選出と、その指導をお前に任せたいと思う」
「····俺に? 父上の代理として、ですか?」
本来、代表者の選出は宗主が行うことになっている。その代理を自分に任せる、と
「
「····父上、なにかあったのですか?」
まるで、自身になにか起こるとでも言いたげで。
「
正直、
「父上、ちゃんと説明してください」
「お前は、
「は? あの
話を逸らされ、
「····あいつは、いつもふざけたことばかりする。頭が悪いふり、なにもできないふり、
偽ることなく
気付いていた。あの姿は嘘で、偽物だと。だからこそ腹が立つ。苛立つ。
「それでいい。お前はやはり宗主に相応しい」
いったい、なにが起こっているのか。
それを知るのは、もう少し後のこと。
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