2-27 鳳凰
白獅子である
様々な建物の全体的な名称を朱雀宮と呼び、その中に設けられている建物それぞれに名がついているのだが、その高台にはそういった名称はなく、長い歴史の中で岩壁が削れ、自然にできたでっぱりのようなものだった。
「
無の陣。使う者によってその範囲は異なるが、
もちろん、
だが、
五大一族の格付けでその
「私と君で、この舞台全体に陣を敷く」
「この舞台全体に、ですか?」
「ああ。私もひとりでは難しいが、ふたりで範囲を補足すれば問題ない」
確かにひとりではまず無理な規模だが、ふたり力を合わせればなんとかなる気がした。
「彼らがすべてを発見するのはやはり無理があるだろう。ひとつでも見逃せば怪我人どころでは済まなくなるかもしれない。ならば、そのすべての符の効果を無にする。他にも何か仕掛けているのだとしたら、それも防げよう」
「でも無の陣を相手に気付かれないように敷くには、どうしたら····」
無の陣は発動する際に暁色の太陽のように光る陣が浮かび上がらせる。それはかなり眩い光を放つので、民たちの混乱を招きかねないのだ。
「最小限の力で、広範囲で陣を敷く。運良く今は太陽が真上に来ていて、晴天。ちょうど
「大丈夫。やりながら私が力の使い方を教えてあげるから、なにも心配ない」
(やっぱり、伯父上はすごい····いつか俺も、あんな風に)
肩で息をしながら、
まだまだ道は遠い。それでも、いつか。
青い空にこの岩壁に囲まれた要塞、
まさに鳳凰。それ以外の何者でもない神聖な存在が上空を舞うように炎の翼を広げ、旋回する。炎を纏った何本もある尾は長く、まるで孔雀のよう。纏う炎から火の粉が散って、夜空に上がる花火の如く美しい。
あれが、この地を守護する四神、朱雀。
その鳴き声はなんとも表現できないもので、鳥でも獣でもない。しかし言葉を失うほどの迫力と神聖さを、その場にいた者たちは感じたはずだ。それでも恐ろしいという負の感情よりも、気高く美しいとさえ思える不思議な高揚感が勝ち、その姿をいつまでも見ていたいと思ってしまう。
朱色の陣を中心に、薄い膜のような結界がこの地を覆っていく。それは
結界が完成すると、朱雀は再び炎の翼を広げ、陣の中へと戻って行った。途端、あんなにも暗かった空が、まるで夢か幻でも見ていたかのように澄み渡った青色へと戻っていた。
そのすぐ後、大きな歓声が地を揺らすほどに響き渡る。神子を呼ぶ声が重なり、民たちの喜びがここまで伝わってくる。本当は心配していた。
ひとは得体の知らないものや力を、少なからず恐れる傾向がある。
それが神と名の付く力なら尚更だ。しかし、この地の民たちは恐れよりも感動が上回り、神子の再来を心から歓迎しているようだった。それくらい、この国には"神子"という存在が必要で、望まれているのだということを思い知らされる。
「····俺も、負けていられない」
膝に力を入れ、
「俺は、白獅子になる。この国を視る、白獅子に」
伯父である
でも、いつかきっと叶えてみせる。
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