2-26 穴だらけの計画
正直な話、
それでも、それが正当なものなのであれば、理解しようという気持ちはあったので、
「
「たかが朱雀の神子ごときに、俺に質問する権利があるとでも?」
この鳳凰の儀においての神子の役割は、宗主となる者の装飾品のようなもので、本来の朱雀の神子としての意味合いはない。故に、参加する
「
「は? お前には関係のないことだろう?」
「うーん。関係ないっていわれちゃうと、それまでなんだけど」
腕を後ろに回したまま首を傾げ、わざと
「あなたがこの舞台の外でやろうとしていることに、すごく興味があるんだ」
そのひと言に、
「さっき、観覧席で変な動きをしているひとがいたよ? なにしてるのかなって、すごく気になったんだ。もしかして、なにか悪いことをしているんじゃないかって」
視線を泳がせるように観覧席を気にする素振りをみせ、再び
そんな中、
すぐに自分に対して手を振っていると気付いた
「そこまでして、宗主になりたいの?」
「何か勘違いをしていないか?」
それに対して、
「ひとつ良いことを教えてやろう。俺は、宗主になりたいんじゃない。宗主という存在自体を地の底へ陥れたいのさ。あの
かつて、自分の両親を見殺しにした宗主。前宗主の謀反のせいで行き場を失った恨み。その宗主も
「他がどうなろうと、知ったことではない」
観覧席に仕掛けさせた火薬の量は僅かだが、別の場所にいくつも置くように指示してある。符を連動させて同時に発動させれば、驚いた民たちは混乱し、逃げ惑うことになるだろう。
そしてこの儀式が中止になるようなことになれば、すべて宗主の責任となり、怪我人や死人が出ればさらにその罪を問われる。
「民を守れなかった宗主。あいつはそうやって信頼を失っていき、それを起こした犯人が一族の者だなんてわかった日には、この地は完全に終わりだな」
はは! と興奮した面持ちで
「うん、でもそうはならないと思うよ?」
そしてふと
(ふん、誰も俺を止めることなどできまい! 符を発動させれば、終わりだ!)
袖から符を取り出し、
この符が合図となり、他の符も連動して燃え上がるように作られている。そうなれば、火薬に着火し観覧席の一部を次々に吹き飛ばすだろう。
符に霊力を込めると、光を湛えた。同時に
これでもう、引き返すことはできない。
「そこまで!」
上空から声が降り注ぐ。その声は穏やかな中にも厳しさを含んでいた。突如頭の上で響いた声に、観覧席にいる民たちの声援が静まり「なんだ、どうした」と口々に囁き出す。
決着を目前にして中断されたことに、民たちは困惑していたが、舞台の上にひらりと舞い降りた者の容姿を目にした途端、老若男女関係なく黄色い声が観覧席から上がる。
それもそのはず。そこに悠然と立っていたのは、この国でその姿を知らない者はいないだろう存在、あの白獅子だったからだ。
白い羽織には銀の糸で描かれた一匹の白獅子。羽織の下に纏う衣もまた白で、腰帯も白だが、帯を飾る長綬と短綬は薄青だった。長い黒髪は上の方だけ団子にして纏め、それ以外は背中に垂らしている穏やかな表情の青年は、注目されている舞台の真ん中で、大層丁寧に拱手礼をしてみせた。
「皆さん、お楽しみのところすまない。私は白獅子、
民たちと同様、状況がわかっていない
「ここからが本番だよ、」
そんな中、ある者が口を開く。その者は頭から被っていた赤い面紗をポイッと投げ捨て、くすりとその美しい顔に笑みを浮かべる。
風で飛ばされた面紗は空高く舞い上がり、澄みわたった青い空を悠々と泳ぐのだった。
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