2-24 不穏な動き
(彼は愚かだけど、それなりに頭は回るわ。悪い方なら尚更ね、)
その労力を別のところに使えば、それなりに使い物になるのだろう。初めの頃は復讐に囚われていただけだったが、今となってはただ単に
これから起こることをすべてを彼のせいにして、民からの信頼を不信に変えるのが目的だ。実に考えなしの策略だといえよう。
そしてそのことを
すべて知っていて好きにやらせていたと知られる方が、寧ろ問題だからだ。あくまで知らない状態で対処してこそ、
(まあ、どうにもできない時は、私が動くだけ。あの子の望みは、誰ひとりとしてこの争いに巻き込まないこと、だもの)
主の望みを叶えるのが、その従者となった者の務めだ。どうにもならない時は、自分が本来の姿を晒す。それによって
それにしても、神子の力はやはり目を瞠るものがある。あれは四神の力の片鱗だろうか。
(本当に不思議な子····あの子にとっては、ひとも妖者も関係ないみたい。自分が正しいと思ったことをする。でもそういうところ、共感するのよね)
自分もまた、特級の妖鬼でありながらひとを守っている。男はどうでもいいが、女子供が酷い目に遭うのは赦せない。ひとだった頃の自分が、最期の時に誰にも助けてもらえなかったことが原因かもしれないが。
(····でも逆に、あの時、
あの森の中で、助けられたこと。なんの見返りもなく、手を差し伸べてくれたこと。彼がそんな風にひとを救っていた理由も。辿って行けば
彼とその神子との繋がりまでは知らないが、彼にとっては絶対的な存在といえる。それは
「
桃色の上衣下裳を纏った宮女、
「そう····すぐにでも行ってあげたいけれど、席を立つことはできないわ。
「わかりました、お任せを」
あの子が、亡くなった。まだ九歳と若いのに。これからだというのに。
長く生きてきた分、ひとの死は多く見てきたが、子供が亡くなるのは悲しかった。あの子の母親も、あの子を失えばどうなってしまうかわからない。
すぐにでも行ってあげたかったが、自分にはこの舞台を最後まで見届ける義務があった。あのふたりなら役目以上の働きをしてくれるだろう。
ひとから恐れられる存在である妖鬼であること。知らないからこそ慕われているだけで、本来の姿を知れば、皆が手のひらを返したように自分を拒絶するだろう。
(やはり、私はここで終わるべきなのかもしれない····あとは、彼女たちがその基盤を受け継いで、上手くやってくれるはず)
(その時が来たら、私は····)
迷わずに選ぶ。
******
そんな
「
「いや、
「この目で見たのは初めてです。話だけなら、
こくこくと
(意図的にそうしていたのか、たまたまなのか····けど、わかってたことだけど、思い知らされる。あいつは神子で、すごい存在なんだってこと)
四神の主である神子。この国を守るために存在する神子。この先、何度もこんな風に思わされる場面に遭遇するのだろう。その度に自分の不甲斐なさを思い知り、遠くに感じてしまうのかもしれない。
「····
暗い気持ちに覆われていた
「
「さすが
素直な反応に、
そんな中、白獅子である
「····どうやら、動き出したようだね」
観衆たちとは違う方向を向き、掻き分けるように逆の方向へ歩いている者がいる。それも複数、それぞれ違う場所で。それを気付かれないように少し距離を置いて追尾する者たちもいる。あれは
彼らの向う先はバラバラで、それぞれが違う目的をもって動いているようだった。
「
(どうかこれ以上、皆さんに危険なことが起こりませんように····)
なにもできないことが、歯痒い。自分はただの従者でしかない。
せめて悪いことが起きないようにと、なにかに祈るしかなかった。
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