2-18 紅宮の主として
子は十歳になるまで、ここでの生活を約束されており、元宗主の妻や子供たちに対しても、自分たちの好きにするよう、
約束、というか「お好きにどうぞ」という興味のなさの方が勝っていたが、女たちは自分たちの意思で、残るか出て行くかを決めることができたのだ。
それは身寄りのない女たち、行く当てのない者たちにとっては悪いことではなく、結果、ほとんどの者たちが残ることとなった。
しかし、当の本人がこの
運良くあの宗主に娶られれば、今以上の良い生活ができるかもしれない!
そんな夢は、皆の中からすぐに消えたが。
「
「どうかしたの? 仰々しいわね」
この三人の宮女たちは、
「以前、病で寝たきりになっている娘に、医師を手配していただいた件を憶えておりますか?」
「前置きはいいわ。その娘がどうかしたの?」
「はい、病状が思わしくなく、医師も数日持ち堪えられるかどうか、と」
以前手配した者は、この地で一番優秀な、朱雀宮に仕える医師。それが匙を投げたのだとすれば、もうその娘は助からないだろう。
まだ九歳の娘で、母親は確か暗殺された方の宗主の、数多いる妻のひとり。元々は
「そう····では一度、その娘と母親のいる宮に足を運びます」
宮女たちはその答えに対して、明るい顔で
当然、他の女子供たちがどうなろうと知ったことではなく、自分とその周りの取り巻きたちだけが、優雅な生活を送っていたのだ。
しかしいつの頃からか、その立場が一変した。
今のように
(確か、その娘の病は心臓の病だったはず。人間は個体によって寿命が違うけど、まだ幼い娘が命を落とすのは、歯痒いわね)
しかし、どうにもならないことはある。病気、寿命、予期せぬ事故。
どうにかできないこともないが、時期的に"今"ではない。
(可哀想だけど、予期せぬことでも起きない限り、私にはどうすることもできないわ)
まだ幼い娘の顔色は青白く、横で看病している母親も疲れ切っていた。そ、と肩に手を置いて、
大勢いる女たちのひとりでしかない自分に、そんな言葉をかけてくれた主に対して、女は涙ぐみながら頷いた。
「
女はぽろぽろと零れ出した涙を止めることができず、両手で顔を覆った。
そんな様子を見て、
両親は生まれた時からおらず、妓楼の前に捨てられていたらしい。親と呼べる者は妓楼の姐さんたちだけだったが、彼女らも各々事情を抱えていた。
それをずっと見てきたし、自分もまた、生まれついての奇妙な眼のせいで、心から信じられる者などいなかった。
宮を後にして、
薄紫色の上質な上衣下裳を翻して、
「
「鳳凰の儀は明日。あなたたちも私の傍で控えていなくてはならないから、今日はゆっくり休んで明日に備えなさい」
鳳凰舞に始まり、鳳凰の儀は長丁場となるだろう。こちらに流れてきた情報では、あの忠犬のような護衛の
(まあ、どうせ芝居でしょうけど。考えたわね····こちら側の者たちを、
「これ以上、誰も殺さない、殺させないで」
あの言葉。
その意味も。
(······この鳳凰の儀が終わったら、私は、)
まだはっきりと決めたわけではないが、
そして思い出していた。
あの森の中で、助けてくれた鬼の事を。そのすぐ後、ひとでなくなった時の事を。
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