2-7 狼煙と夢月
交渉が成立し、
ゆらりとその暗黒色の空間から姿を現したのは、細身で右が藍色、左が漆黒の半々になっている衣を纏った人物。
美しく細い黒髪は、後ろで三つ編みにして赤い髪紐で結んでおり、左耳に銀の細長い飾りを付けている、つまり、青年姿の
その金色の双眸が冷ややかに見据える先には、特級の妖鬼である
「やっと、みつけた······」
「あ、
幼子の姿ではなく、いつもの姿に戻っていた
「
言いかけて、
「あら、随分なご挨拶ですこと。私があなたになにかしましたか、
「まあね。それにしても新しい皮の悪女面、あんたの性格が滲み出ててよく似合ってるな。似合いすぎてて違和感ないから、全然気付かなかったよ、」
ふたりの視線の先から、バチバチと見えない閃光がぶつかり合っているような気さえする。表情はお互い至って冷静で、嫌味な笑みがそれぞれに浮かんでいたが。
「あ、あれ? ふたりは知り合い?」
「いいえ」
「まったく」
え? と
「もしかして、この子と一緒にいた幼子って、」
口に手を当てて、あら?とわざとらしく首を傾げる。明らかに面白がる材料にしようとしていることに気付き、
「俺だよ。可愛かったでしょ?」
自信満々に言い切った。
「あの目付きはどう見ても
ものすごく大袈裟に
「その方があんたたちを完璧に騙せるだろう?」
「ええ、本当に騙されましたわ。でも途中から、こちら側の者だという事だけは気付きましたけれど」
「ええっと、ふたりとも? 知り合いってことで良いんだよね?」
「いいえ」
「まったく」
ええ〜····と、
「うーん。とにかく、状況報告をしたいから、まずはここから出よう。
「あら残念。でもまあ仕方がないわね。最後まで役は演じ切るわ」
握っていた手を解き、名残惜しそうに
「可愛い主、私の名を教えてあげる。私の真名は――――。ふふ。なにかあったら、私の名前を呼んでね?」
「····あ、えっと、うん! ありがとう、力になってくれて」
その行為に、
「駄目だよ、
それくらい、心を許している存在なのだろう。
気持ちはよくわかる。目の前の少年は、本当に不思議な存在。これが"神子"という絶対的な存在なのだろうか。
「じゃあ、行くね。そろそろ姿を見せてあげないと、みんなに突入されちゃうかもしれないし」
「裏口に通じるようにしておいたから、すぐに外に出られるわ」
「うん、ありがとう。じゃあ、よろしくね」
明るい声が響き、そして静寂が戻る。
「これが全部終わったら、今度はなにをして遊ぼうかしら」
ひとに紛れて、普通に暮らすのも悪くないかもしれない。昔のように、ひとであった頃のように、穏やかに生きていくのも。そこには、良いことも悪いこともあるだろうけれど。
妖鬼になった原因は、その悪いことが重なったせい。忘れることはないが、もうどうでも良いと思えるくらいの時間は過ぎていた。
「その前に、まずは駒を動かしてあげないとね」
それが、初めて自分の真名を預けた、唯一の主の願いなら。
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