1-30 花轎
一夜明け、頬に触れてきたあたたかい指先で目を覚ます。ゆっくりと開けた瞼の隙間に見えたその顔を見つめ、自然と笑みが零れた。
「······すまない」
あの後、少ししてから花嫁衣裳を脱ぎ、化粧を落としてもらい、髪形も元に戻してもらった。いつもの黒い衣裳に身を包んだ
夜になり、
途中で
三人でいることは、なによりも大事だと、
少し違うとすれば、あの頃は自分の子供のように
「
瞼が重くなり始めている
この姿の
そうやって甘え倒していた
「俺は外を見張ってるから、あとはよろしくね、」
居心地の良かった膝の上から降りて、返事を待たずにさっさと出て行ってしまった
こくん、こくん、といつの間にか椅子の上で転寝をしている
(ずっと気が張っていたのだろう。
(君は強いな······しかし、時には今日のように弱音を吐いてもいい。他の者にできないなら、せめて、私の前では、)
「······
寝ぼけているせいか、少し舌足らずな口調で甘えてくる
握られた手は冷たく、自分の左手に熱を求めるかのように指先が絡められる。
「わかった。君の傍にいる」
「········ありがとう、」
言って、安堵したのか再び瞼を閉じた
そしてそのまま夜が明けたのだ。
「俺の方こそ、ごめんね。まさか朝までそのままでいてくれるなんて思ってもみなくて········大丈夫? 少しは眠れた?」
ゆっくりと身体を起こす
「護衛が寝ているわけにはいかない。だから、ずっと君を見ていた」
その秀麗な顔に浮かんだ優しい笑みを目にした時、
******
福寿堂の店先がいつも以上に賑やかになっていた。それは朱雀の神子をひと目見ようと集まった
そして時間通りに、朱雀宮から運ばれていた
「
「当然です! だって
自信満々にそんなことを言う
「"
そ、そうでした、と
「ここからはひとりで大丈夫。後の事は任せたよ」
紅蓋頭と呼ばれる赤い薄い布を頭から被り、顔を隠す。そして、入り口の扉が外側から開かれた。
急に差し込んできた光と、先程まで遠くで聞こえていたざわめきが、急に押し寄せるように目と耳に入って来る。
扉の先の左右に列が作られ、正面の花轎まで続いていた。
用意された花轎は、朱漆塗で描かれた
それはとても華やかで美しく、神子候補の失踪の件さえなければ、それに乗ることに躊躇はしなかっただろう。
「朱雀の神子様がこんな近くで見られるなんて!」
「思っていたより小柄ね、」
「きっと見目美しい方に決まっている!」
様々な声が耳に届く。
真っすぐに花轎を見つめ、一歩を踏み出す。
(ここからが、本番。大丈夫。この先、なにが待っていようとも)
担ぎ手のひとりが手を差し出し、それに右手を乗せる。担ぎ手は中に座ったのを確認すると、他の担ぎ手たちに合図を送った。
その合図で四人の担ぎ手たちは同時に花轎を担いで立ち上がる。進んで行く花轎を中心にして、人だかりの中、道が自然に開かれて行く。
遠く離れていく輿を、見えなくなるまで民たちが見守る中、福寿堂の者たちは各々の任務のために散る。残された
(さて、奴らはどうでるか······まあ、どんな謀を企てようが、そのすべてに対応してみせますけどね)
いつもの穏やかで優しい顔に不敵な笑みを浮かべ、敵に対して宣戦布告をする。
そして良く晴れた空を見上げ、その時を待つのだった――――。
******
第一章 花轎 ~了~
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