1-28 福寿堂の店主
福寿堂の中に入ると、店主を真ん中にして店の者たちがずらりと並んでいた。外でそれをすれば、かなり目立つだろうという気遣いもあってのことだった。並んだ十数人の者たちが、同時にその場に跪く。その光景は圧巻で、
ここの者たちは、
ちなみに、
「今回、朱雀の
肩までの長さの黒髪を後ろで縛り、長い前髪を真ん中で分けている。その瞳は朱色。鶯色の上衣下裳に、白い衣を肩から掛けている。
他の者たちは皆、臙脂色の
「こちらこそ、お世話になります。私は
彼自身は信頼のおける者であっても、その他の者たちに関してはすべての者たちが彼と同じとは言えないため、念には念をということだ。
「あの宗主が自ら選んだひとと言うから、どんな方かと思っていたのですが······あなたのような細身の方だったとは。どうか御身をご自愛ください。この堂におられる間は、私たちも全力でお守りします」
少し
「······本当に、存在していたんですね」
思わず、言葉が零れてしまい、自分でも驚いた顔をしていた。それは、
「記録の民と呼ばれる
「記録の民? あ、ええっと······お、私は、自分の事はよくわからなくて。両親も物心ついた時には亡くなっていたものですから、」
「そうでしたか。でもとても貴重な民の血を引いているのなら尚更です。傷のひとつでも付けよう輩がいたら、この手で二度と立てなくしてやりますので、ご安心を」
にこにこと笑みを浮かべながらそんな物騒なことを言う店主に、
(あの宗主の昔の仲間っていうからには、ひと癖もふた癖もあるだろうとは思っていたが、)
「例の衣裳は二階の部屋に用意してあります。袖を通していただき、明日までに長さの調整を致します。着付けは、」
「私にお任せください! 調整もこちらでやりますので、ご心配なく!」
「ええっと······あなたは、
と、承諾する。
挨拶も終わり、店の者たちもそれぞれに持ち場に戻って行く。
「では、行きましょう!」
(花嫁衣裳、か。そういえば
遠い日の思い出を頭の中で思い浮かべて、
******
まだ
その表情はとても幸せそうで、それが男女が夫婦になる儀式であることを初めて知った。
もちろん、皆が皆そんな豪華な儀式を挙げられるわけではなく、大きな商家の息子と娘の式だった。
「素敵だね。綺麗な花嫁衣裳······皆に祝福されて、あの子たちは幸せだね、」
幼いながらに、
「
「「え?」」
みるみる真っ赤になっていく
「け、結婚っていうのは、一生を共にすると決めた男女がするもので! 私と
「え? だって、ふたりは"こいびと"なんじゃないの?」
「ええっ! ちょっと、どこでそんな言葉覚えたのっ!? わ、私たちは······えっと、
(別に隠さなくてもいいのにな、)
ふたりがどんな関係かなんて、傍で見ていればすぐにわかる。
ふたりが赤い衣裳を纏い並んで歩く姿を想像したら、なんだか幸せな気持ちになった。
そんな懐かしい情景を思い出して、
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