1-20 反発する勢力
扉の前で待ち構えていたのは、
それは、昔から一族同士での諍いが絶えないためで、本来の術士たちが出現させる霊剣とはまた別物だった。
霊剣は妖者を倒すための霊力で形造られた剣のため、人を傷付けることはできない。代わりに、武器として使うことを目的として造られた刀剣は、人同士が傷つけ合うためのもの。
本来、術士が持つべきものではないのだが、この一族特有のその風習から、皆、腰に佩くことが当たり前となっていた。
そして、腰には銀の装飾が付いた白い鞘に収められた刀剣が下がっている。
「宗主、お一人で来るならまだしも、部外者を連れて入るなど、言語道断では?」
その中心にいた三十代くらいの男が、
「そうえいば、昨夜、外から来た者に婚姻を申し込んだとかなんとか。それが子持ちの女だとは知りませんでした。ここへはその報告にいらしたというわけですか?」
幼子、の姿に扮した
男の言葉に、周りの数人の同じか下くらいの年齢の青年たちが、馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「ああ、それがなにか問題でも? 婚姻を結んだ者が、宗主と共にこの
面倒なので、その設定で話を進めることにした。ある意味、間違ってはいない。足元にいる
「鳳凰の儀はひと月後だ。その前に事を起こした奴らがどうなったか、知っているだろう? つい二年前の事だ。まさか、忘れたわけではないだろう?」
二年前、鳳凰の儀の前に当時の宗主が暗殺された。それを画策したのは、ふたりの老師。老師たちに担ぎ上げられた愚か者と、その者の側近や兄弟たち。
しかしそんな栄華は一瞬にして終わった。鳳凰の儀で
宗主を殺すという大罪は、問答無用で死罪。どんな理由があろうと赦されない。鳳凰の儀の際であっても、殺すという行為は認められていない。
あくまでも朱雀の
「話は終わった? 早く帰ろう、色々と聞きたいこともできたし?」
「ふん。朱雀の
そうだ、そうだ、と囃し立てるように周りの者たちが声を上げる。
「ねえ、おじさんさち、この羽織が見えないの? この羽織、朱雀の
それに続けて口を開く。
「その通りだ。ならば掟はもちろん知っているな? 朱雀の
故に、
「その掟を破った者は、鳳凰の儀に参加する資格を剥奪される。つまり、俺を倒す機会すら無くすということだ」
男たちはその言葉に、それ以上何かを言うことはなかった。くそっと毒づいて、中心にいた男が背を向ける。
「俺は認めない。お前のような薄汚い野良犬が、宗主だなんて······俺は絶対に認めないからな! 鳳凰の儀でその座から引きずり降ろしてやる!行くぞっ」
去り際にそんなことを吐き出して、男は皆を連れて去って行く。この
だがなぜここにいることがわかったのか。
途中まで気配は感じなかった。後をつけられていたわけではないとして、どうやって奴らはそれを知り得たのか。
「婚姻って、なに?」
くい、と裾を引かれ、
「俺が
「それは、まあ、ご愁傷様、としか言えないね」
「だが、この儀の間だけは、俺にも権利がある。そういう意味では、やましいことなどない。なんにせよ、奴らの顔は全員憶えた。危害が加えられないよう、なにがあっても守ると誓おう」
「まあ
ぽつりと呟いた言葉は、
外の空気は、
もぞもぞと身体を捩らせた
「あ、あれ?
「朱雀の契約は上手くいったみたいだよ、」
その金眼を見て、
「もしかして、逢魔!? 可愛い! そんな姿にもなれるの!?」
「そうだよ。当分はこの姿でいるから、よろしくね?」
腕の中で騒ぎ立ている
被された赤い羽織に気付いたのか、首を傾げてこちらを見上げてくる。
「
へへっと無邪気に笑って、無明はそう言った。
無防備な嘘のない笑みに、自然と自分の顔にも笑みが浮かんでいるのがわかった。
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