廃病院よりこんばんは~ある夜の肝試し~

kuro

 あるなつの昼頃。俺は高校の食堂で昼食をべていた。ちなみにメニューはナポリタンとコーヒーのセットだ。そんな俺に、一人の男子が近付いてくる。こいつは俺の数少ない友達ともだちの一人だ。

「よお、隣良いか?」

「別に、誰も予約よやくしてないから好きにしろ」

 友達のぼんの中身をちらっと見る。どうやらこいつはサンドイッチに素うどん、紅茶のセットを注文したようだ。随分ずいぶんと食うな。あきれた視線を向ける。

 だが、どうやら、そんな視線も通じないようだ。にやにやと笑みを俺に向けて俺の視線を軽くかわしている。本当にこいつは、全くいつもいつも。変わらずマイペースのようだ。

 本当に、何で俺はこいつと友達になったんだったけ?そもそも、何時からこいつと友達になったんだっけ?気付いたら仲良なかよくなっていた気がする。

「そうだ、今夜近所で肝試きもだめしをしようぜ?」

「いきなり何だよ?脈絡みゃくらくが無さすぎるって」

「まあ良いじゃねえか。夏と言えば肝試し、肝試しと言えば廃墟はいきょ、廃墟と言えば病院に決まっているだろう?という訳で、今夜近所の廃病院はいびょういんに肝試しに行こうぜ?」

 だから、脈絡が無さすぎるって。しかも、何だその奇妙きみょうな三段論法は?意味も理屈も全く理解出来ないんだが。

 とはいえ、まあ別に良いけどさ。俺も別に断る理由りゆうも無いし。

「まあ、別にいけどさ。とはいえ肝試しをやるなら人数合わせが必要だろ?ついでにあいつをさそうのは有りか?」

「ん、あいつ?」

「いや、俺の彼女かのじょだよ」

「ん~……OK、かまわないぜ」

 そう言って、俺と友達は肝試しの約束やくそくを取り付けた。さて、次は彼女だけど。まあアイツははっきり言って問題ないな。なにせ、こんな面白おもしろそうなイベントは率先して参加させろと言い張る程の変わり種だからだ。

 ……そして、昼食を終えてクラスに戻った後。彼女に肝試しの話をする。

「肝試し?」

「ああ、今夜俺と友達とお前の三人で肝試しをしようと思うんだが。良いか?」

「やるやる!むしろかせて!」

 何ともきらっきらした目で。本当、肝試しの雰囲気ぶちこわし確定だな。まあ、別に友達も気にするような奴じゃないだろ。別に良いか。

 そう思い、今日の授業を真面目まじめにこなした。ちなみに、俺の学校での成績は中の上をキープしている。授業も真面目に受けている為、教師からの評価ひょうかは割と高い。それ故、夜遅くに外出するのは教師は良い顔をしないだろう。

 だから、教師には決してバレないよう俺達は立ちまわる事にした。

 ・・・ ・・・ ・・・

 そして、夜。俺は家をこっそりけ出し彼女と落ち合って廃病院へと来た。夜の廃病院は中々雰囲気が出ていて正直身震いした。

 だが、そんな状況下でも彼女はハイテンション。そして、廃病院でっていたと思しき友達はマイペースだった。本当、一体どうして俺のまわりはこんな個性的な奴ばかりなんだろうな?そう思うが、まあ別に良いや。

「じゃあ、早速さっそく入ろうぜ?廃病院へレッツラゴーってな」

「おーっ‼」

「お、おぅっ……」

 三者三様。俺達は全くちがうノリで廃病院へと入っていった。

 ……病院内は、とても暗い。暗い院内を、懐中電灯でらしながら進んでいく。

 俺は終始周りを警戒けいかいしながら進んでいたが、彼女はやはりノリノリだった。ふざけて俺の腕にき付いてくる。抱き付きながら、テンション高く鼻歌まで歌う始末で雰囲気というものがありはしない。

 ありはしないのだが、何故か俺はさっきから違和感いわかんを感じていた。

「えっと、何かおかしくないか?」

「え、何が?」

「いや、別にいんだけどさ……」

 俺は変わらず、周囲を警戒し続ける。瞬間、俺の背後から何かささやくような声が聞こえてきた。気のせいかと思ったが、どうもさっきから変な気配がまとわりついているのがぴりぴりと感じる。

 再び、ささやくような声が聞こえた。こんばんは……と。くすくすと、わらい声が。

「なあ、いまのお前か?」

「ん、何が?」

「いや、ささやくような声でこんばんはって……」

「……?知らないよ?」

「……じゃあ、お前か?」

 そう言い、俺はさっきから一言もしゃべらない友達の方を見た。其処には、誰も居なかった。そう、此処には俺と彼女の二人しか居なかった。

 何処どこにも、友達の姿すがたがない。そう思った瞬間、何かこみ上げてくる感情が。

「う……っ」

『ばぁっ』

「うわああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ‼‼‼」

 いきなり背後はいごから聞こえてきた声に、俺は思わず尻もちを着いた。其処に居たのは白髪の小柄こがらな少年だった。しかし、どう見てもただの少年ではない。その少年は薄緑色のシャツを着ていたからだ。どう見ても、入院患者という姿だ。

 だが、この廃病院でこの姿はマッチしているようでおかしい。そう、きっとこいつは生きている人間じゃないんだろう。

 そう思った直後、彼女が物怖ものおじしない様子で少年にいた。

「ねえ、貴方はこの廃病院の幽霊ゆうれい?」

「ちょっ⁉」

『ああ、そうだぜ?ひゅーどろどろってね』

「ぅええっ‼」

 彼女が物怖じしない様子で聞くのをめようとしたが、幽霊少年は呑気にも笑いながら肯定こうていした。それに更に驚く。

 そんな俺を見て、幽霊少年はけらけらと笑う。一体何が面白いのか?

『こいつ、面白いな。からかいがいがあるぞ?』

「そうでしょそうでしょ。私の自慢の彼氏かれしなのよ?」

「お、お前等……」

 羞恥しゅうちにぷるぷる震えながら、俺を見て笑う幽霊少年と彼女をにらむ。

 しかし、彼女と幽霊少年にこたえた様子は無い。どころか、俺をもっとからかいにくる始末だった。

『ほら、もっとぎゅっとき付けよ。ぶちゅーっとキスの一つでも』

「おい、止めろ!」

「んーっ……」

「お前もるんじゃないっ‼」

 もうイヤ、こんな空間俺はえ切れない。

 本当、もっとこう。なあ?肝試しってこんなじゃないだろう?

「一体何なんだよ、お前。どうして幽霊がこんな陽気ようきな性格してるんだよ。おかしいだろ色々いろいろと……」

『なんだなんだ?俺のキャラに文句もんくでもあるのか?陽気な幽霊が居たらおかしいか』

「いや、別にそうじゃないけどさ……」

『まあ、理由はあるけどな?』

「あるのかよ……」

 つかれ気味にツッコミをいれた。もう、本当嫌だ。

 何で幽霊がこんなノリノリなのさ?

 ・・・ ・・・ ・・・

 話は数年前にさかのぼる。少年は割と裕福ゆうふくな家に生まれた。望めば大抵の物が手に入る、そんな環境に少年は生まれたらしい。

 辛い事はあった。少年は肺をんでいたからだ。呼吸すらままならない難病を抱えて生まれ、それでも両親からあいされ育ってきた。

 そんなある日、少年はこの病院に転院てんいんする事になった。この病院に初めて来た少年は、何故だか嫌な空気を感じ取った。空気がよどんでいる。空調は整っている筈なのに何故か空気が重く淀んで、そして何より嫌な空気だった。

 それだけではない。病院の院長いんちょうも少年は好きになれなかった。笑顔が貼り付けられたその奥に、狂気きょうきのような何かを感じたからだ。その狂気の正体を、当時の少年は結局知る事が出来なかった。

 少年は、死亡した。典型的な手術しゅじゅつミスだった。しかし、今考えれば単なる手術ミスだったかもあやしいと幽霊になった少年は思っている。

 何故なら、空気が淀み重苦しかった理由を知ったからだ。

 病院内には、怨念おんねんがあまりに多かった。病院という施設の中だ。こういう幽霊というのが居てもおかしくはないだろう。

 しかし、それにしてもこの数の怨念は異常いじょうだった。おかしい、何故こんなにも怨念でちているのか?そう思った幽霊少年は、近くの怨霊に話を聞いた。すると、とんでもない話が聞けた。

 どうやらこの病院、方々から少なくない人をあつめては非合法な人体実験を行っていたという。それも、後の医学いがくの発展を銘打ってだ。

 院長を好きになれない理由はこれだったのだ。あの笑顔に隠された狂気とは、きっとこの事だったのだろう。そう、幽霊少年は理解りかいした。

 理解して、決意した。この病院は即刻潰そうと。そして、この怨念達を何時までも何時までもなぐさめ続けようと。そう決意した。

 その後日、病院内に居る全ての怨念を率いて幽霊少年は院長をのろい殺した。その後病院は、瞬く間に潰れて廃墟と化したという。

 ・・・ ・・・ ・・・

『そうして、今に至るという訳だぜ』

「いや、ギャップがすげえな。さっきの話の暗い雰囲気ふんいきを返せよ」

 けらけらと笑いながら、そうあっさりと話す幽霊少年。本当、さっきまでの暗いノリは一体何処へ行ったのやら?

 そう思ったが、まあそうだな。こいつにもそんな暗い過去かこがあったんだな。そう思い俺は幽霊少年に手をし伸べた。

『ん?』

「また来るよ。今度は、肝試しとかではなく友達ともだちとして」

『っ⁉い、いやまあ二度とるんじゃないよ。此処は本来生きている奴が来る場所じゃないんだからさ‼』

 まあ、確かに。此処は心霊しんれいスポット、まあ生きた人間が本来近付いてはいけないのだろう。けど、それでも俺はこいつをもうこわいと感じなかった。

 なので、最後に俺はこれだけは言う事にした。

「じゃあな、またおうぜ!」

「じゃあね、バイバイ!」

 彼女も俺に合わせて幽霊少年に手を振る。幽霊少年はれたのか、顔を背けてこちらに軽く手を振った。

『お、おう。じゃあな』

 そうして、俺と彼女は適当に病院内を散策さんさくしてから外へ出た。うん?何か忘れている気が……

「ねえ、ちょっとい?」

「ん、何だ?」

 見ると、彼女が僅かに青白あおじろい顔をして俺を見ていた。

「君の友達ともだちはどうしたの?」

「……………………」

「それに、おもったんだけど君にあんな友達っていたっけ?足元あしもとが少しだけ浮いていたような気がするんだけど」

「……………………」

 そう言えばそうだった。俺に、あんな友達はなかった筈だ。

 だとすると……?

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