第9話 任ぜられる

 それぞれの精霊たちが、ワタシの体からニョロっと出てきた。


 シの精霊が言う。


「いや~、暴れたねぇ。燃やしすぎだろ」


 風の精霊が言う。


「足りないよ」


 火の精霊も言う。


「あれでも抑えてんだよ。この体を火傷させないようにさぁ」


 ワタシの体を見ながら、精霊たちが討論している。そこに光の帯が降りてきた。

 シの神が降りてきて指示を出した。


「この者を連れて来なさい」

「分かりました。お連れ致します」


 シの精霊は、ワタシの体に両手をかざすと光のモヤがズワッと浮かび上がり、モヤを抱えて上空へ上がっていく。そして残った精霊たちは、ワタシの体をどうするか見守っている。


「ほれ、目覚めなさい」

「・・・・・へ?」

「感じ取ることに集中せい」

「手足の感覚がないんですが?」

「そりゃ、ないもん」

「漂う布的な感じですが、あってますかね?」

「知らぬよ、細かい表現は。今は、精神体の状態。あんたらの言い方だと魂か」

「ここ、どこですか?体はどこ?」

「どこどこ言いなさんな。ここは通常入れないシの管理室隣にある会議室」

「あ、その声ってシの神さんでしょ」

「やっと気付いたか」

「それなら、ワタシ、武装集団にやられてしまったわけですね」

「ほぅ、理解しても騒がないか」

「ワタシのひらひらした根元部分をシィさんに掴まれてるので、何もするなってことかなと」


 お面の下でニヤッとしたシの精霊がいるのが分かる。現状、見た目のイメージでは空気より軽い手ぬぐいが飛んでいかないよう握られてる。どうやら、夢ではなさそうだ。精神体なのに、記憶が出てくる。


 シの神が、説明を始めた。


「あのね~、アンタ来るのが早いんだよ。もう何十年か先の話で、次のシの精霊候補として今のうちから目をつけておこうとしたら、精霊見えるようになっちゃって、身を挺しちゃって、精霊取り込んじゃってこっち来ちゃって」

「それなら、ちゃちゃって蘇らせてください」

「そりゃ、ならぬ。元々魂がユニークなんだから、身を挺して何かを守り、命を失うことするだろう。それと、そもそも肉体がない」

「なんすか、肉体がないって」

「原住民たちが、埋めた。動物たちに見守られながらな」

「あぁ、あぁ。でも、誰かを助けるってやっちゃいけないことですか?」

「その思考がユニーク。まずは自分の命って考えるのがほとんどだが、命を惜しんでない。だから、この会議室に連れてきてんの」


 会議室という空間を見渡すが、ただの白い空間で、実体があるわけでもないから椅子や机はない。神や精霊は事前に計画しているが、ワタシからすれば分からないことしかない。


「で、何されるわけです?」

「さっきも言ったように本来ならば、シの精霊の後継者。でも、他精霊たちの報告を踏まえ、島の精霊を任ずる」

「島?」

「そ、枠が空いてたんで、島を守る精霊。土地神と似てるが、そこまでの力をまだ与えられてない」

「あの島を守るのか・・・」

「違う。あの島含め諸島が27あるので、全部管轄。ほとんど無人だから、たまに飛んでって見回り」

「島の防衛って、どうやるんです?夜中に、ワーッて驚かすとか?」

「そりゃ、子供向け。大体の思いつくことはできる。自然現象を利用できるし、動物や祈祷師と話しして協力してもらうのもありだ」

「・・・もしかして、地域の伝承や昔話に出てくる不思議な話って、精霊たちがやってることを人が伝えてるというわけでは?」

「少なからず、そういう場合もある。作り話も多いけどな」


 言われて思い出す、山深い親戚の家で聞いた森の神、山の神といった伝承話。代々伝わっていることは実話もあるわけなんだ。確かに、一定の場所に行くと空間が切り替わる感覚があった。そういうのも意味があったのか。


「物思いにふけってるとこ悪いがね、いつまでも精神体のままじゃ形が保てなくなるから、精霊になってちょうだい」


 シの精霊が台座にワタシを置いて、飛んでいかないよう格子状の箱を覆い被せる。


「さて、始めるよ」


 シの神が、ワタシの精神体に右手をかざし、モゴモゴと何か唱えると辺りが光に包まれた。格子状の箱が吹き飛び、ワタシに新たな体を与えられた。


「ブフッ」


 シの神と精霊が吹き出した。


「なんすか、姿見て笑うて」


 シの精霊が鏡を持ってきて、姿を見せた。


「なんじゃこりゃ?」


 体が丸く緑色で、苔玉に手足が生えている印象。顔はあるけど、お面を付けさせられている。口を尖らせているように見える。・・・ひょっとこだねぇ。しかし、人の姿に比べれば、ずいぶん小柄になったな。空飛ぶからその方がいいだろう。森の中を駆け抜けるにも機能的だ。


「ほれ、島で挨拶してきなされ」


 シの神が半笑いで言い、シの精霊と共に島へ降りていった。

 島の海岸沿いに着陸し、景色を見渡す。


「あのさ、シィさんよ。武装組織との騒動から時間はどれくらい経った?」

「ん、1ヶ月半くらいかな」

「そんな時間経ってるの?地上とアッチの世界じゃ流れる間隔が別なんだよ。次元が違うってアンタら言ってたろ」

「あ~、そういう言い方してたね」

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