第7話 解釈の違い

 いろいろ気になって眠れなかった。


「シィさんよ、いるかい」

「なんだね?」

「今日のさ、猿とジャガーの対決なんだけど、普段は殺し合うの?」

「行き過ぎたら、そうなるだろう。よく割って入ってったな」

「気付いたら体動いてたし、ケガも治せてた。あれは、何の精霊が協力してくれたの?」

「誰もいねぇよ。治癒できる精霊ってこの辺じゃ見かけないし、そもそもいるのかね?草の精霊から薬草教わるのは可能だがな」

「それなら、ワタシの治癒できたのは、自分の能力?」

「だろうね。アンタの生命力を分け与えたんだろ」

「え、生命力を分け与えたんなら、ワタシの寿命が減るってことか?」

「その辺は、よく分からんよ。ただ、シの精霊としてアンタを早く連れていけるのは喜ばしいことだ」


 仮面越しだけど、ニヤニヤしてるのが分かる言い方をシィさんがしている。


「あぁ、そうだったな。シィさんは、ワタシの寿命待ちだった。くそぅ、もう寝る」

「良い夢見ろよ」


 若干気分を害し、眠りについた。

 朝になると、騒がしくて目が覚めた。息絶えた3頭の猿が、猿の縄張り内にあった。


「ジャガーは食べなかったんだ。返してくれたわけか」


 ボス猿が、ワタシの手を引き、動かない猿たちに手を当てさせる。回復させてみろってことなんだと思う。

一応、触れてみて脈の確認するが、すでに命がない。ボス猿の顔を見て、ワタシは首を横に振った。

 察してくれたボス猿は大木の下に亡骸を運び、周囲の猿たちが落ち葉を集めて隠すようにかけていく。ワタシもそれに倣い、多くの落ち葉を集め、上からかけた。


「自然に還るってやつだね。命は終わるけど、植物の糧となって、果実が実り、動物たちがそれで命をつなぐ」

「あれ、感傷的だね」

「そりゃ、葬儀だし。人がやることを、自然界の中でも行われてるって感慨深いというか、命の輪廻も感じられる」

「オレからすれば、死骸見たくないから木の根元に置いただけ。妙に知性があると意味を持たせようとする。命が終わって、体からアンタらが魂って呼んでるもんが、フョ~って抜け出るから、『お疲れさん~』ってオレらの役割が今から始まる。まだ、その辺に漂っているから、ちょっと見てなよ」


 シィさんが、木を駆け上がり、腕で掴む動きをして地面に着地する。3つのモヤ状したものが集まっていた。次に両手をカッと真上に伸ばすと、揺らめくキラキラした帯状の光がゆっくり降りてきて、モヤ状に絡まり、空に引っ張り上げられた。

 それを見届けたシィさんが、こちらに近付いてきた。


「見たか、今の。魂が地上で迷わないよう送り届ける。これが、シの精霊の役割。で、上で別の誘導するのが、シの神。ですよね?」

「何、ですよね?って」


 横を見ると、白いフードを被った存在がいた。


「え、何だよ!いつからいたの?」

「ん、驚かせた?精霊が連絡してきたから、現場を見に来た。シの神、よろしく」

「初めまして。って、ついでにワタシを引っ張り上げに来たとか?」

「まだ、時期じゃない。違う。シの神、力使ってもいいけど、なんか違う」

「大鎌使って、魂をごっそり持ってく存在ではなくて?」

「は~、だからニンゲンは。あれは、勝手な信仰心から出来た。信じれば神。敵対すれば悪魔。アタシはアタシ。力を見せれば奇跡とか言って、役目をすれば奪いやがったって!」


 シの神が、何か思い出したのか興奮している。


「お勤めご苦労様です!」

「なんだ急に?」

「役目と言われたので、どの神でも出来ることではないんだなと思いまして」

「どの現場にでも神が降りて、対応してたら間に合わない。そのための精霊」

「では、ご質問よろしいでしょうか?」

「へぇ」

「何故に、シの精霊がワタシにべったりと付きまとっているのでしょうか?悪影響のある存在とか?」

「すぐ悪い方にとる。どういう形であれ、命が終わったならばアタシらの役目をするだけ。連れていく。精霊がそちらに付いたのは、とてもユニークだから。もし、悪影響というのがあるなら、アンタは肉体から離れている」

「ユニ~ク?」

「そのうち分かる」


 ゆらゆらと揺れながら、シの神は回答した。その後、精霊と神がやり取りをしている。奇妙な光景と思う。いや、違うか。あらゆる生物がその命を終え、肉体から何か抜け出て、その場に漂うが何もできない。途方もない時間経過したら漂うものだらけでモヤって、そのモヤが見える側からすれば、見るべきものが見えなくなるわけか。

要は渋滞混雑してしまうから、送るべき場所に送っていこう。だから、その手の精霊と神が存在するんだ。

 精霊と神の連絡事項が済んで、シィさんが言う。


「やっぱり、アンタ、ユニークだねぇ」

「どの辺が?」

「いずれ分かんべ」


 シの神は、す~っと上空に舞い上がり見えなくなった。


「あの猿の魂はどうなるの?」

「オレは、それに干渉できないから、知らないし考えもしない。役割を果たすだけ」

「まぁ、そうだよな」


 ぼんやりと頭上を見上げていた。


「あのさ、シィさんよ」

「なんだよ」

「あの密林の王に挨拶行くのって止めてた方がいい?」

「追いかけても無理だよ。縄張り以外にこの島を巡回してるし。何するつもり?」

「改めて、ちゃんと挨拶した方がいいのかなって」

「そりゃ人間の話だろ。用があれば、向こうから接近してくるでしょ」


 ひとまず、猿の群れに戻り、猿たちの毛づくろいをして、群れへの弔いと気を落ち着かせることを優先させることにした。

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