第5話 猿の群れ

 シの精霊と案外長い呼び方なので、許可をもらって『シィさん』と呼ばせてもらう。


「それでよ、シィさん。ワタシ母国に帰れるの?」

「そういうのは、コチラ側がどうこうすることじゃないので、アンタ次第だろうによ」

「ですよねぇ。しかしだ、国に帰れたら、シィさんどうすんの、付いてくんの?」

「・・・・・体の大きさが変化するが、ぴったり付いていく。オレの役割だからな」


 おそらく、ワタシ一人だったなら、原住民の儀式で終わっていただろう。それ以前に、よく分からず始末されててもおかしくなかった。このシの精霊は、単純にワタシの生命の終わりを待っているだけ?分からない。ただ、切り抜けられたとして、たった一人だったなら、パニックになって遭難しもっと悲惨な状況だったのでは?とも思っている。


 どれくらい歩いたか分からないが、木々の茂り方や密林具合がどんどん濃くなってきている。

 さらに進むと、ザザーと風が吹いてきた。


「風の精霊が教えてくれているぞ」

「危ないって?」

「そうだ」


 ウォッ!ウォッ!アォァァァァ!

 雄叫びの後、木の枝や幹が飛んできた。


「お~、遠距離物理攻撃?木?って、放り投げて来てるじゃん」

「あれあれ、木の上に大きい猿の種類が、がんばって威嚇してんぞ」

「あの連中には、シィさん見えてんの?」

「動物たちは、比較的見えてそう。感覚が人とは違うからな」


 避けながら進むと、木々が少ない場所に出た。ん~、猿の罠に引っかかったみたい。見事に猿の群れに囲まれている。木の上にいた連中は投げるのを止め、様子を見ている。地面の猿たちは飛び跳ねたり、ウホウホ言ったり、落ち着かない。すると、一番大きな猿がゆっくりとこちらに近づいてきた。明らかに群れのボス。


「縄張りに入ってきたから、むかついてるわけよね」

「危険かどうかの判断もある」

「あらそう。でも、先に手を出せないねぇ。攻撃してくるか分からんし」

「・・・あの子らさ、雑食だからね。肉も食らうぞ」

「うん、知ってる。動物番組で見たことある。だから、どう動いたものやら距離感が近いと、緊張感が一気に高まるよ」


 シィさんと話していると、ボス猿が木の幹を放り投げてきた。

 ワタシは両手で払う感じで、風の層を厚くして、幹を受け流した。


 ホォワァッ!ホォワァッ!ホァホァホァ!


 すんごいざわついている群れ。ボス猿は、体を大きく見せ、今にも飛び掛かってきそうな位置にいる。これに興奮した子猿が一頭、すたすたと走ってきた。見た感じは、小さい子供の猿。ボス猿から離れているから守れる位置にない。


 キャッキャッ


 子猿は、両手で地面を叩き興奮している。ゴロゴロ転がってみたり、ワタシにお腹を見せて、両手を伸ばしている。


「遊びたいんじゃないの、この子?」

「危ねぇぞ、知らんぞぉ」


 ワタシは、ボス猿を警戒しつつ、手の届く距離にいる子猿に先程投げられた木の枝を振って、ちょっかいを出してみた。

 木の枝をつかもうとしたので、子猿の脇やお腹に木の枝を当て、くすぐって遊ぶ。キャッキャッと声を上げ、喜んでいる模様。


「これ、いけるんじゃないの?」


 しゃがんだ状態のワタシは、じわじわと近づいて、素手で子猿をさらにくすぐったり、撫でてみる。さらに、毛づくろいの真似事をして様子を見る。子猿は嫌がらず、毛づくろいを受け入れている。ちょっと、顔を上げて周囲を見てみた。

 静まり返る猿の群れ。ボス猿にいたっては、一頭だけ取り残されてる感があり、ちょっと浮いていた。


「抱っこしていいかな?」


 一声かけて、子猿を抱きかかえ、さらに毛づくろいをする。ちょっと落ち着いたのか、子猿がワタシの頭を毛づくろいを始め、肩車の形になったり、抱っこの状態になって、子猿寝る。その寝姿を見たら、ワタシがずーっと緊張状態にいて寝ていないことを思い出し、気を失うかのように仰向けで、子猿を抱っこしたまま寝てしまった。


「おーい、それマズイんじゃねぇのか~?」


 シの精霊が言う。少しずつ猿の群れが近寄ってくる。ボス猿も木の幹片手に接近中。しかし、ワタシは熟睡中。子猿もスヤスヤ寝ている。猿たちは、お互いの顔を見合わせ、ワタシの体を指で突いてみたり、匂いを嗅いでいたそうな。


 どれくらいの時間寝ていたんだろう、ハッと気付いて薄目で周囲を見てみる。ボス猿を始め、群れが一緒になって寝ていた。


「いやいや、普通ありえないでしょ」


 思わず声に出して言った。


「そりゃ、ありえないね。オレがいたからだろ」

「シィさんが説得したん?」

「いや、何も言ってない。オマエさんが子猿抱いて寝てるから警戒心が薄れ、精霊が近くにいるから信用していいかも?そういう理解が群れでされたんだろう。ボスも怒ってなかったし」

「あ~、そうなのか。子猿まだ寝てるし」


 ワタシは、ゆっくりと体を起こした。母親らしき猿が近づいてきたので、ゆっくりと手渡した。ワタシが目を擦っていると、もうボス猿が真横にいた。瞬間的にすごく緊張したが、攻撃されたらそれまでと思い、じっとした。


 ンス~ フス~


 荒い鼻息をしながら、ワタシの頭を毛づくろいしつつ、匂いの確認をしている。若干、体当たりのような接触をしてくるので倒されつつ、ボス猿の腕を毛づくろいして、背中を触ったり、真似事を返した。

 それを見ていた他の猿も、ちょっとワタシの皮膚感を試したり、匂いを嗅いでいる。群れの一員ではないと思うが、危険性がないってことくらい理解してもらえたと思う。

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