第4話 シィさん

 シの精霊が続けて言う。


「あのさ、原住民に病人が出て、長老が儀式で生贄差し出して、悪霊を取ってもらうって伝統のやり方を守りたい、その気持ちが高ぶっちゃって、祈祷師仕方なくやりましたって嘆いてる」

「嘆くの?ワタシ、下手すると今頃いないの、この世に!」


 大げさな身振りで表現するが、原住民にはシの精霊が見えてないので、生贄が何もない所に向かってしている動作は、とても呪術的で見知らぬ言葉はさぞかし呪文だろう。


「どこにいるのさ、病人は?案内するように言ってよ」


 シの精霊が話し、祈祷師が指差す。その方向には、なんともやせ細った娘さんがいた。


「解説できそう?」

「待ちな」


 通訳後、祈祷師が言う。


「食事が出来ないそうだ。熱はない。だるさもない。両親がとても心配している」


 その娘の前に座り、じっと見てみる。


「特に異常が感じられない。祈祷師に通訳頼む『お嬢さん、恋をしてるね。好きな人のこと考え過ぎてないかい?』」


 シの精霊が、えぇぇ?って蔑んだ目でワタシを見る。一応伝える。

 そして娘の反応。・・・顔真っ赤にして、小さくうなずく。


「ほれ、見たか、シの精霊さんよぉ!アンタが、余計な能力目覚めさせたから、こんなこと分かっちゃった!しかも、恋の病を当てるなんて、そもそも相手の気持ちをここの原住民は分からなかったんだよ」

「・・・あのね、ここの原住民って自由恋愛じゃないのよ。だから、ツライ気持ちなのよ、お嬢さんは」

「それさ、ワタシが制度変えるってダメかな?いかづち落として、自由に恋しなさいって」

「ちょっと、聞いてみるね」


 シの精霊が祈祷師に聞く。結構、長い時間話し込んでいる。


「昔さ、自由恋愛で誰の子供か分からないことあったんだって。だから、親同士が決めるようになったと」

「はぁ~、どこの地域でもそういうのあるのね。決まりを破ると、追い出されるの?」

「集落の端っこで住むみたい。獰猛な生物に襲われる危険性が高まるね」

「でも、自分の気持ちに正直でいたいよね。相手に断られたなら、仕方ないけど。娘さんに通訳して。『端っこに住んでも、そこは"あなたたちの安寧の住処だ"』って」


 祈祷師が娘に伝えると、祈られた。ワタシの気持ちが通じたのかな?しぐさを真似した。

 その後、徘徊するように誤魔化しながら、集落の端っこまで来た。


「祈祷師だけが、ついてきてるね」

「長老に何言われるか分からんからだろう」

「というか、シの精霊も付きまとうじゃん」

「そりゃ、アンタ見るために呼ばれてるし」

「ワタシの全裸状態が継続中なんですが、どう思う?」

「その辺の枯れ葉で隠しな」

「新鮮な葉じゃダメなの?」

「カブレるぞ」

「え、かぶれが起きる?体質変わらんのか?」

「体質サポートは知らねぇよ。新たな能力が身につくか試しただけだし」


 むかついたので、葉っぱとツルを見つけ、葉っぱを腕の内側に付け、簡易パッチテストをして肌が赤くならないかゆみを伴わない葉を組み合わせて、パンツを作った。少し離れた場所で、祈祷師が感心していた。


「通訳お願い。『用がないなら、集落から離れるよ。攻撃するなら、焼き払う』」

「ん~、ちょっと待ってな」


 祈祷師がうろたえて、しぶしぶ、うなづいた。

 集落から、どうにか離れられた。ワタシのパスポートやら貴重品ってどうなったんだろ。それ以前に、ここがどこか分からない。中心部を目指すか。海を目指すか。

 なんとなく歩き出した。横には相変わらず、シの精霊がいる。


「そんなに、ワタシに執着するのかい?」

「ん?暇だからだよ。もし、寿命が来たら、こちらとしてもメリットがあるし」


 眉間にしわを寄せて、眺めてみた。


「精霊って存在は、自然物にいるもので、霊とは違うわけで、神とも異なるじゃんよ」

「そうだね、存在する次元が違う。ある程度の自然現象には関われると思うよ」

「それなら、木の精霊が船にいて脱出を手伝ってくれたりする?」

「ぁ~、船の精霊がいたんだけど、最近サポート外になった。空き枠だ。アンタ、人の体諦めて、船の精霊になったら地元帰れるぞ」

「何言ってんの、人の形で生きた状態で帰りたいの。勝手に人の体をおかしくしといて、寿命待ちしてるなんて」

「精霊の空き枠って、案外あるから要望聞くよ」

「そもそも空くのかよ」

「精霊自身が思う役割があって、それが達成されると、空きが生じるわけさ」


 ぽてぽてと歩き続けて、小さな沢があった。


「ちょっと、うがいしたい。変なもん飲まされた後、単純に臭い」

「あ~、待って。アンタが沢に手を入れて、『浄化』って言った方がいいかも」

「生水危険ってか?シの精霊ってそういう気遣いしてくれるのね」

「腹下されても面倒。『腹下して、お亡くなりになりまして』って連れてくの、なんかヤダ」

「実際、よくある話だろうによ」


 ガラガラガラ、ブヘェッペッペッ


「あの儀式の飲み物って、中身知ってる?」

「独自の薬草配合だよ。白い粉入れたかもしれんが、そもそもが幻覚作用ありだ」

「本当に景色がグルんて回るんだよ。すごい色が見える。あとは、強烈に臭くてマズイ。内臓が機能しなくなったかも」

「お、オレの出番が早まったか?」

「う~るさいな。あのちょっと思ったんだけど質問いい?」

「なんだね?」

「シの精霊って、毎回ちょっと長いので『シィさん』って呼んでも構わなかったりする?」

「そもそも呼称するのは、人が勝手にやってることだから、どうぞぉ」

「はい、了解」

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