第3話 精霊と祈祷師とワタシ

 精霊ですか。原住民とか部族だと、精霊って存在大事にするよね。神とは違ってさ。薬物キメるとこういうのが見えるようになるんだ。へ~、普段じゃできない体験だもんねぇ。貴重だわ~、二度とないからさ~。


「何、勝手に感心してんのよ。オレ、あの世に導いて、シの神に引き渡すための存在。連れてくぞ、この野郎」

「幻覚に脅されるて、どういうことよ。自分の幻覚なんだから、消えなさい」

「んだからよ、精霊だっ言ってんだろう。酔ってんな~」


 先程、液体を飲ませた顔黒原住民が騒いでいる。


「うるさいな~」

「ほれ、さっきのヤツさ、アンタらが言う祈祷師だ。アイツだけオレが見えるから『精霊がいるぞぉ~』って叫んでる」

「それなら、シの精霊がワタシを殺してシの神に連れてくわけか」

「いんや、精霊も神も殺せない。待つだけ」

「じゃあさ、なんでワタシの横に来た?これから、処刑受けるのか?」

「アイツらが儀式として何人か生贄にしたけど、そういう魂って欲しくないんだよ。真っ当に生きたから、導かれるんだよ。その辺をさ、祈祷師に説明するんだけど、長老が理解できなくて、生贄差し出すんだ」

「へ?生贄は無駄になっただけ?」

「自然に還る?っ~か、自然に溶け込むだけだよ。さまざまな動植物に取り込まれて、自然と一体になる。どういう形でも、シは、シだ。」


 精霊と話し込んでいると、脇腹にヤリを突き刺される。


「ん~、良くないねぇ。分かっちゃいねぇな」

「精霊、アンタは結局生贄を見に来たんだろ。事切れる確認しにきたんだろ?」

「だから、さっき言ったじゃん。そういうの違うし、求めてないって」

「でも、このままだとワタシは刺されて終わんぞぉ」

「それもあり得るね。試してみようか。賭けって言った方がいいかな?さっきの飲んだ液体とこの刺激で新たな力が備わるかな?」

「何、言ってんだよ」


 シの精霊が少し距離を取って、右手を高々と上げ、振り下ろした。


 バリバリバリ ドドーン


 雷鳴が轟き、稲妻が磔にされたワタシの体へ目掛けて落ち、原住民たちが一斉に小屋へ逃げた。

 やがて、大粒の雨が降り出した。磔の木材やワタシの体からは燃えた匂いと煙・蒸気が上がっている。落雷の衝撃と湿った磔の木材が割れ、地面に落下した。もちろん、ワタシの体もベチャッと落ちた。その衝撃で、ワタシは意識を取り戻した。


「痛ぇぇ、痺れるし、痛ぇ」

「お、意識戻ったか。何か違い分かるか?」

「まだ精霊見えんだ。へぇ~、ほぇ~」

「ほぇ~じゃねぇよ。感覚としてどうよ?どうよ?」

「鬱陶しいなぁ、ビカビカして眩しいから、よく見えない」


 雨が止んで、祈祷師が慎重に近づいてくる。


「シの精霊よ、その者は何なんですか?」

「アンタさ、生贄いらないって言ったっしょ。無駄なことすんなよ」

「長老には逆らえんのです」

「だから、変わらないんだ。変わらないことは良い事もあり、悪しき事でもある。でもさ、分かるよな?」

「はい、その~」


 祈祷師とシの精霊が話しているが、それが見えない原住民たちは一斉に武器を取り、ワタシ目掛けて攻撃し始めた。矢とヤリが次々に刺さるが、ポロッと抜け落ちる。しかし、痛みを感じないわけではない。


 ワタシは、その矢とヤリを持ち、叫んだ。


「いい加減にしろ!痛ぇって言ってんだろうがぁぁぁぁぁ!」


 次の瞬間、ワタシを中心に吹き下ろしの風が強烈に吹いた。原住民は倒れ、住まいである小屋は崩れた。恐れおののく原住民を見て、祈祷師がワタシに何か言っている。


「精霊さんよ、この人何言ってんの?」

「『目覚めたお方よ~、お怒りを沈めてください~』だとさ。どうする?」

「どうする~?って、何よそれ。長老には、挨拶したいかな」


 見た目で分かりやすい長老が、ワナワナと震えている。小走りで近づいたら、ぬかるんだ場所でキレイにすっ転ぶ。その姿に、さらに原住民が震え上がる。怒りの表現と勘違いしたようで、地団駄を踏んだように見えたのだろう。

 ちょっと悪乗りして泥を周囲に蹴散らし、長老の目の前に行った。


「言葉知らないから、何言ってもしょうがないよな~」


 殺されかけた仕返しにしては軽すぎるが、手についた泥を長老の頬に左右3本ずつヒゲとおでこに横線1本を描いた。


 ゆっくりと気を失う長老。


「え、あれダメなの?」

「あれさ、猫科の動物に狙われるって、ここの原住民の呪いみたいなもんだ。知らずにやったのか?」

「知るわけないじゃん。適当だ」


 呆れるシの精霊。


「あのさ、ここいてもワタシ狙われるだけなんだろ?移動してもいいか?」

「ちょっと待ちな、祈祷師に目的を聞いてみるから」


 シの精霊は祈祷師を手招きして、話をする。


「アンタらの生贄が今回の儀式の目的を聞いてきてるが、どうしたんだ?」

「若い娘が病のようで、長老が儀式やるぅ~って言い出して聞かなかったんです」

「・・・アホか。そんなんで命犠牲にして病気助かるかも?って、祈祷師は薬師兼ねてないのか?」

「薬師が早くに亡くなったもので、伝承に至らなかったんです」

「一子相伝って、そういう時に困るよねぇ」

「そうなんです」


 シの精霊がワタシを呼んで、言うんだ。


「今の会話分かったっしょ?」

「分かるか、ボケェ!」

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