第2話 見えちゃった
部屋に入ると、男性3人が座って待ち構えていた。
「お待たせして申し訳ありません、日本から参りました。この度は、ご迷惑をおかけ致しました」
と、片言の英語で伝えた。
首をかしげる男性たち。
「英語下手すぎて通じなかったですかね?」
「お前は、何も言わなくていいから黙っとけよ」
コーディネーターが慌てた。それから、英語ではなく現地語でなにやら話し、交渉しているようだ。
「ほれ、その荷物を持っていけ」
「はい」
言われるまま、荷物を相手の前に差し出し、引き下がる。
男性たちは、荷物の中身を確認して、袋を取り出し、重さを計り、白い粉を液体と混ぜ、反応した色を見たり、こぼれた粉を歯茎に擦りつけていた。
その光景を見て『はは~ん、歯磨き粉ですな。歯周病予防や歯槽膿漏だと歯茎に直塗り』と、とぼけてみる。会社はコーディネーター選びをどうやったの?そもそも、なんのための出張だったんだ?どうにか逃げ出したいが男性たちの目がだんだん血走って、瞳孔が開きっぱなしで危険すぎる。
また、コーディネーターが男性たちと話し始めた。長くなりそうだなって思うと、上半身すっぽり袋が被せられた。
なんかギャーギャー叫んでいるけど、抵抗してないじゃん。その場にしゃがんでいるだけなのに、何騒いでんだよ。
「うわっ!」
上半身と足で二人がかりで運ばれている。しばらく移動して、放り投げられる。
「え、水の中?」
落とされた場所は、少々硬い所だった。これで水なら、命は無かったよ。それからドタドタと数名が走り回る音がしてドルゥンドルゥンとエンジンのかかる音がした。・・・船じゃん。
袋は取ってもらえず、高速で移動する船に酔い、袋の中で、ゲロッとする。大して食べてないのに、吐くんだよな。周りは叫んで、蹴られた。なので、さらにゲロッて出ちゃう。何も見えないまま、船が走った。
また、叫び声がする。発砲音もして、船が何かにぶつかる衝撃音がした。振動がすごく、転げ回った。
気がつくと、揺れがなかった。ただ、誰かが乗っかっており、とても重い。また、叫び声がする。
船内に数名乗り込んできたのが分かる足音、ワタシに乗っかっていた人がどけられた。もしかして、救援隊?ガバッと袋を外され、見えてきた光景。弓矢とヤリを持った鼻に棒を刺し、体には独特の模様が塗られた姿。原住民かぁ~。
無理やり起こされたので、周囲を見ると、複数の男たちが血まみれになっていて、息がないように見える。その中にコーディネーターもいて額に弾痕があった。また、白い粉の一部は血と混ざり使い物にならなくなっていた。
しかし、煙たい。これ、燃えてんじゃん。
原住民が、ワタシの腕を引っ張り、強引に船から引きずり出した。それからすぐ、船が炎上しだした。
助かったんだ。助けられたんだ、そう思うじゃん、やっぱりさ。
「イタッ!」
原住民は、ヤリで背中を突つきだした。状況が分からないワタシの首にひもをくくりつけ、無理やり歩かせた。
「んだよ、助けたんじゃねぇのかよ!」
思わず声を荒らげたら、弓で背中をバシィッと叩かれた。それから、どれくらい歩かされたのか森林ではなくジャングルを進んでいった。雨で濡れており、よく分からない鳥や猿といった獣たちの叫び声が響き、ただの森じゃねぇって。
ようやく歩くのを止めて、霞む目で見ると集落があった。喉が渇いた、そう思ったら気を失った。
「みずぅ~、水が欲しい」
気が付いたら、ぶつぶつ言ってた。次の瞬間、水を大量にぶっかけられた。意識を戻すためだったのだろう。
「うわ、手首痛い」
痛みで意識が鮮明になり、自分の姿を見て驚く。後ろ手に縛られ、全裸で
「こんな分けわからない場所で殺されてしまうのか・・・」
うなだれていると、はしごがかけられ、顔が真っ黒に塗られた人が登ってきた。手には、液体の入った木の器を持っている。
「なんだ、ぶっかけんのか?化粧用の液体か?」
ぶつぶつ文句を言うと、ワタシの鼻をつまんでグィッと上げ、開いてしまった口に器の液体を流し込んだ。
「んう゛ぅ、ぐう゛ぉ、ぐぅ」
吐き出そうにも苦しくて飲んでしまった。それから、頭を左右に振り、器を落とさせた。すると、ヤリで腹を斬られていた。
なんとも表現しがたい味。というか、マズイとしかいいようがないんだが、目の前の景色が渦巻いている。まさか、原住民って白い粉を略奪したのか?それを儀式として、混ぜ込んで飲ませたのか?
全く目の焦点が合わないまま、磔状態で時間が過ぎていた。
「ありゃ、大変だねぇ」
幻聴まで始まったのか。
「そりゃ、大変でしょうよ。磔で斬られて、変なもん飲まされて」
「ん~、アイツらさ、それ飲むと普段と違うものが見えるようになるって飲みだして。そんなことしなくても見えるはずなんだけどな」
「さっきから、何を言ってんだ?」
声の方向を見ると、三日月のような形したお面を被り、布を纏った1mくらいの大きさの存在があった。
「アンタ、誰?」
「ん、アイツらは、シの精霊って呼んでる」
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