ワタシの精霊

まるま堂本舗

第1話 早々に巻き込まれる

 新入社員のワタシは、前任者が逃亡したため、赤道直下の国に視察に行くことになった。正直思うよ。新入社員であるワタシが、会社の業務内容を大して把握してないのに、現地視察?土下座ショーを世界に広めるため行かされるようなもんでしょ。英語もろくに出来ないだろうから、現地コーディネーターと同行しろって話だけど、初海外で緊張しかないでしょ。

 機内食のよく分からない硬いパンをかじり、変な映画を見る。雰囲気で、恋愛ものだろう?って思っているが、なかなかの銃撃戦で海外の恋愛は激しいんだと理解する。その後、踊りだすって、どんなテンションよ。

 現地到着には10時間くらいかかり、さらに待たされ荷物を受け取り、ようやく空港出口に向かう。あ、コーディネーターがいるとか言ってたが、待っていてくれたのだろうか?キョロキョロしていると、会社名のパネルを持った、いかにもって感じの中年小太り男性が立っていた。


「アンタが、私の待ったされったヤツか?」

「はい、大変お待たせ致しました」

「そうか、んだば、ホテルに行きゃっすですか」

「行きましょう、ホテルへ」


 年代物の日本製バンに乗り込み、荒い運転で車酔いしつつ、ホテルに到着。


「明日朝、早めに迎えに来たるから、ロビーで待っちょり」

「はい、分かりました。あ、両替所ってどこです?」

「オレが出来る。よこせ」


 絶対誤魔化されるであろうから、2000円渡してみた。


「んほぉぅ、大金じゃんかぃよぉ。ほれ、大金持ち!」


 渡されたお金は、きれいな円柱状にまとめてあり、輪ゴムで止めてあった。


「これ、いくらなんです?」

「気にすんな、腹いっぱいになるし、えげつなく酔える。ただ、フルーツは買うな。すでに発酵してっから、ガスがすげぇ」

「どゆこと?」


 車を降りると、猛スピードで走り去った。・・・パトカーも走っていった。あたしゃ逮捕されんじゃねぇの?

 ホテルのフロントに行くと、身振り手振りで予約確認がどうにかできた。30分過ぎたけども。


 ホテルの部屋に入ると、夕日が見れた。ヤモリ家族が相部屋なんだね。守られてっから、良いんかな。変な虫喰ってくれるっしょ。そういや、自分が食うもんをどうにかしないと。

 また、フロントに行き、片言英語で食事ができるとこないか聞いて、通りに出てみた。街灯が少なく飲み屋っぽい所は、ごついアニキたちが踊っていた。ベリーデンジャーなゾーンじゃないか?偏見?怖いので、コンビニっぽい商店に入り、パンとお菓子とビールっぽい緑色の缶、そして水をレジに持っていく。問題は、お金が正しく使えるのか?

 レジで表示される金額とおおよそのお札を出すと、レジ担当のエプロンおばちゃんから、すんごい睨まれる。愛想笑いを思わずしてしまい、『ふん』と力強い鼻息で威圧される。ありゃ~間違ったかな~と思ったら、お札を多く出し過ぎてたようで、ワタシの左手首をグッと捕まれ、お札と小銭をしっかり渡される。


「センキュ~ゥ~ゥ~」


 と余韻を残しつつ、お礼を言うと


「ヘェッ」


 微妙な笑顔を返された。少し震えながら、ホテルに戻った。

 ホテルの部屋で、テレビを見ながら味のないパンとスパイシーなお菓子、とても軽いビールを飲む。ヤモリ家族も食事中だった。奇遇ですね。

 食後、見たことない虫に怯えながらシャワーを浴びて、ダニ対策のビニールを敷いてベッドで寝た。多分寝た。寝たはず。外で『パーン』が乾いた音が数回聞こえたけど、眠れてるよ、おそらく。

 朝食用に残していたパンが、ネズミにかじられていたので朝食は水のみ。パスポート等貴重品を身に着け、ホテル入り口で待った。案の定、約束時間に来ない。携帯電話は盗まれるからと持たされていない。


 待つしかない。


 それから、どのくらい待ったのかな?遠くからクラクション鳴らしながら、車が来た。コーディネーターだったよ。


「すまねぇ、遅れた。早く乗ってちょ」

「ホント遅いですよ!」


 出発すると、後ろからパトカーが数台来ているのがサイドミラーで把握できた。


「んぁ~、ポリスメンが来てるんじゃないの?」

「それはなぁ、オレたちじゃなくて、前の車を追いかけてんだよ」


 なんとも、都合のいい解釈。


「舌噛むから、しゃべんなよぉ」

「んごぉぉぉぉぉぉぉ」


 急なドリフトで道を変えた模様。というか、目的地の会社なんてどこよ?ビルディングないじゃないのさ!

 カーチェイスを繰り広げる中、さっと脇道で停車して、身を伏せさせられる。


「アンタ、何やったの?」

「何もしてない。ポリスメンが勘違いしてんのさ」


 サイレンが聞こえなくなったので、大通りに出て、車を走らせる。

 港近くの建物で降りるように言われる。相手会社ってここなんだ?貿易会社だから、港にあるのか、と思い建物を眺める。


「ほら、これ持って行きな。お詫びの品ってやつだよ」

「はーい、分かりました」


 かなりの遅刻だから、手ぶらは駄目だよ。ただでさえ、謝罪に来てるんだから。

 コーディネーターが先に入り、入り口カウンターで話をしている。しばらくして、手招きでワタシを呼んでいる。


「挨拶は中でいいから、入ってくれって」

「え、そうなんですか?」


 軽く会釈して、中の部屋に通される。会釈しても、海外だと意味伝わらないだろうな、なんて考えながら部屋に入った。

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