003. 愚か者
この話は、私が過去に目撃した「感情を優先し滅んでいった人」の記録である。
若干マシにしつつ、ファンタジーネタにしてある。
(02/03追記: 書いてて結構ヒドイなぁと思いましたが、角が立たないように色々捻じ曲げてるのでツッコミは無しでよろです)
—―サルペ王国
「ネウストリア帝国との西方世界連合軍は、東の蛮族どもを蹴散らし、大勝利致しました」
帝国とは、西方世界の最強国であり、大陸の北西端を支配していて、この物語の舞台のサルペ王国とは山脈を隔てている。位置関係についてもう少し補足すると、サルペ王国は大陸南西端の弱小王国である。
東の蛮族、というのは大陸東部で勢力を伸ばしつつあるアンゴルモア帝国の事である。3万のまとまりのない連合軍が、10万の集団に勝利したというのだから、西方世界では大ニュースになっているのだ。
この戦いでは、連合軍が先に渓谷に入り、アンゴルモア軍の先鋒を叩いた所で、アンゴルモア軍が急に撤退しただけであった。この渓谷を越えれば西方世界が蹂躙される、そうした所での撤退劇であり、連合軍は皆、呆気にとられていた。
とはいえ勝利は勝利。連合軍の盟主たるネウストリアからは褒賞が出される事となった。武功一番とされたのは、唯一アンゴルモアと交戦した先鋒。サルペ王国からはブルーノ将軍率いる1000の兵が、先鋒右翼を担っていた。
「ブルーノ将軍、よくぞ帰ってきた」
国王からの歓待の言葉を受け取った彼は、ある人に手紙を書いていた。
才色兼備と名高い、ネウストリア第1皇女カーロット姫である。
元々身分不相応と諦めていた恋であった。しかし今となっては「西方世界の守護英雄」である。ネウストリアの姫君との婚姻も果たせてしまうかもしれない。
とはいえ、彼には引っ掛かる事があった。
先の戦いにおいて、実は
アンゴルモア軍は、連合軍の先鋒左翼を集中的に攻撃した。先鋒左翼だけが、アンゴルモアの傭兵隊を死に物狂いで倒したといっても過言ではない。アンゴルモアは使い捨ての傭兵隊で小手調べをした。これを見て、勝つ事は出来ても、勝利に見合う犠牲ではないと判断したのだ。
しかし戦闘後の報告では、左翼側の将軍が亡くなっていたため、彼は情報を捻じ曲げる事が出来たのだ。勿論、これは立派な不正である。彼は一世一代の「チャンス」に賭けた。バレれば死刑、バレなければ武功を一人占め。
ドアを叩く音。その後に入ってきたのは、副将として従軍したヴェルカ卿。
「虚偽申告、近いうちにバレると思いますが……」
ブルーノ将軍は気にも留めない。
「『先鋒が皆戦った』これは事実じゃろう? 初陣でこの武功とは、軍才あるのでは?」
対してヴェルカ卿は、王国随一の歴戦の騎士。国王からの寵愛だけで昇進したブルーノ将軍とは異なり、実務派である。将軍の言葉に呆れつつも、ヴェルカ卿は何とか彼を諫める。
「どうかおやめ下され、王国の名も傷付きます故」
ブルーノ将軍はこう答えた。
「今更止められるか、俺にはこれしかないんだ……」
ブルーノ将軍は幼い頃から、「やるべき事をやらない」人間であった。父に命じられた毎日300回の剣の素振りでさえ、初日に130回やっただけだった。
しかし、当時の国王シャーフォ2世は、こんなブルーノを気に入ってしまった。後世には「愚王」と称されたこの王は、「若手育成」を国是に掲げ、「失敗を許す」という方針を貫いていたのだ。
ブルーノが軍事教練を怠っても、心身の理由を盾に職務を放棄しても、国王は「構わない」と言った。これは失敗などではない。怠慢であったのだが。
そんな折、帝国から連合軍結成の
帝国は「勇猛果敢で英明なる将を求む」と王国に伝えていた。これを見て、愚王は彼を疑いもせずに取り立てたのだ。
しかし。ブルーノの悪い予想は当たらなかった。手足どころか口すらも動かさず、前線で「ただ立っているだけ」で、戦いが終わった。先鋒左翼の将は亡くなった。戦闘経験のない彼は、ふと思い立った。
「報告を少し捻じ曲げても、問題ないのでは?」と。
このような死者に対する冒涜、許されてなるものか。先鋒左翼の僅かな生き残りは、帝国に訴えかけた。
――ネウストリア帝国
「正確な報告が為されてない、とな?」
訴えはカーロット姫の耳にも届いた。カーロット姫の手許には、ブルーノ将軍からの武功を誇る手紙があった。
「丁度良い、これと照らし合わせてみよう」
ブルーノの手紙は、実際の戦況とかなり食い違っていた。
アンゴルモア軍は先鋒左翼に対する集中攻撃を行った。そのため左翼側の損害率は70%を超えていた。また右翼側は全く戦っていないので、勿論損害率は0%である。
しかしブルーノの報告や手紙では、左翼側の損害率が40%、右翼側の損害率が60%と改竄されていた。
カーロット姫はすぐさま、褒賞の類を管理する賞勲局へと連絡した。この結果、ブルーノ将軍の褒美は取り消されたどころか、虚偽報告で訴追される事となった。
奇しくも、彼が想いを寄せていたカーロット姫の行動によって。
この下劣で下等なる感情的生物ブルーノは、一瞬の過ちを悔いつつ、亡くなったという。
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