第二話 月夜を移す曼殊沙華2

玄関の扉を開けると空は雲一つない快晴で、すこし上を見上げるとスズメだろうか。小鳥はいつもみたいに声をだし鳴いている。6月らしく暖く柔らかい風が緩やかに舞い、昨日近くで殺人事件があったなんて思えないいつも通りの朝が広がっていた。




二人が学校に向かう道沿いには花を散らし、夏に向けて黄緑色の葉を芽吹かせ桜の木が並木道の用に広がっている。時間的に大和中学に通うであろうか、中学生の集団や平野達と同様大和高校に向かう集団も歩いていて警察官もパトカーの姿は無くまるで昨日の出来事はなかったかのようだった。


椿は


「昨日の出来事なんて嘘みたいにみんな歩いてるね」


と言い平野も確かにと答えた。




人が殺されたとは言え、現場から学校があるこの地域までは1キロ以上離れている。警察は事件が起きたとはいえここは地方都市な以上人員や予算的に精々名に入った無灯火の自転車やわき見運転に声をかける形だけのパトロールの頻度が増えるだけだろう。それこそ法外な予算が計上される警察庁警備部警備企画課を頂点とする警備公安警察と違い一般の刑事部のような警察は事が起きない限り精々そのぐらいなのだ。だからストーカー事案や不審者騒動が起きても被害者が生まれない限り疑わしい人物がいようが声をかけることも無く結果事件は起こってしまうのだ。その傾向は地方に行けば行くほど顕著に表れる。学校も生徒に何か起きたわけでも無ければ精々不審者に気を付けるよう言う。それぐらいだろう。




そんな事を一人考える矢先、大きな建物が見えてきた。


そここそ二人が通う県立大和高校である。


大和高校には五つの学科がある。平野と椿が通う普通課。就職がメインの総合学課にスポーツが中心の授業で体育大学への進学がダントツの体育科。それに美術や芸術をメインに学び美大進学が目標の美術芸術課に、二人が入学する数年前に大和高校に吸収されてできた工業課がある。さらに昔隣接してた旧大和中学の校舎が渡り廊下で繋がってる為遠くでも非常に大きく見える。1学年に生徒が1500人と言うとんでもない学校だ。その為もちろん問題がひっきりなしに起きるのだが学校の問題解決に貢献してくれる有志の集まる(という建前の)ボランティア部と陸上部の特殊活動部チームAアルファがある。ボランティア部に入るには体力やメンタルを試す選抜と格闘、懸垂降下と言った特殊活動を行うための基礎訓練を受ける必要がありサッカー部やバスケットボール部などの大人数の部員を持つ部活が部長を決める時にも利用し部長や副部長になるにはボランティア部に入ると手に入る特殊活動資格、トライデントが必須になる。平野と椿は一年生の時に入部した。さらにチーム1と2に配属を分けられた後、ボランティア部員のみの12月に行う雪山での耐久行軍選抜に加え追加の特殊訓練を修了すると校外専門で活動し平野と椿が所属するチーム6に入ることができる。


そして大和高校の生徒のほとんどはチーム6と陸上部Aチームの活動してる部室の場所を知らない。もちろんそこに勤務する教師の殆ども知らない。知ってるのは校長と顧問とそこに在籍する生徒だけだ。場所は大和高校に渡り廊下でつながれコンクリートで廊下をふさがれてる旧大和中学校校舎だ。部員からはブラックサイトと呼ばれておりもちろん普通の生徒は、呼び名や入り方を知らない。チーム6に入って初めて明かされるからだ。内部には3階を丸ごと使った近接戦闘訓練室に、椿が所属するブラックチームとゴールドチームそれぞれの部室に平野が所属するレッドチームの部室、武器庫、大浴場、二階フロアの3分の一を占める格技室にフライス盤やドラフトチャンバーなどがある研究室さらに地下には秘密作戦の報告書や全職員、全生徒の個人情報の記された書類など秘密書類を保管する機密保管庫がある。


その建物を持つ敷地の入り口となる大和高校校門には警察官一人ぐらい立っているだろうと思ってた平野達の想像とは裏腹にいつも通り誰か教師が立ってるわけでも無く昨日の出来事があったとは思えないくらい、いつも通りの日常を醸し出していた。


昨日と変わらない日常過ぎて、ニュースの報道がまるで無かったかの用だ


あまりの警戒感の無さに平野は奇妙さを覚え椿も平野ほどではないが似たような感情を抱いていた。




二人は靴を履き替え、椿は


「また放課後ね」


そう言い教室に入っていった。


壁の向こうからは、おはよーって友達に声をかける椿の声が聞こえた。


平野も自分の鞄を机にかけたところで後ろから声をかけられた。


「おう平野。今日授業何限?」


話しかけてきたのは同じクラスの斎藤だった。


斎藤は一年の時から同じクラスの付き合いで、朝顔を合わせると必ず挨拶したり昼食のパンやおにぎりをよく購買に買いに行く関係だった。


「ん?今日は6限のはず。鞄に授業標あるし見る?」


そう言いながら暮らす票を鞄から出すと斎藤に渡した。


「そう言えばだけどさ、斎藤は今日の朝学校の近くで殺人があったってニュース見た?」


「あーそのニュースね、もちろん。うちのかーさんが朝起こしたときに言ってきてびっくりしたわー。


なんか朝来る時は何も無かったみたいな雰囲気だけど、意外とみんなその話でもちきりになってるよ」少し笑いながら言った。


「でも大人も大人で校門に教師一人か二人立たせるとかしないんかなー。


ん、授業標。ちょっと時間あるし教科書取ってくるわー、あざす」


そう言うと斎藤は少し早歩きでロッカーと下駄箱のある玄関に向かっていった。


平野は椅子に座り肘を机につき窓の向こうにある隣の校舎をぼーっとしながら眺めつつ、クラスのみんながどんな会話をするのか、耳を傾ける。平野はその時間がさりげなく好きである。


恋愛の話、漫画やゲームの話、そして朝のニュースの話もまばらながら聞こえた。


特に恋愛の話に関してはどう言うわけか一度椿と平野が付き合っているって話を聞いて以来いつも必ず耳を傾けていた。


そんな事をしてる内にチャイムがなりいつも通りの一日が始まる


あの事件はその後どうなったか、平野の頭の中は放課後まで上の空になるのだった。


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