第22話 豚の乱入

「――――、水球!」


 俺は詠唱を唱え、魔法を発動させる。すると、俺の手の先から水の玉が現出した。その水の玉は、俺の前方にある的へと飛んで行く。そして、水の玉は的に命中したのであった。


「若様、お見事にございますな」


 ユクピテ卿が俺の放ち終えた魔法を褒める。7歳になり、攻撃魔法の練習を本格的に行えることになったことで、俺の魔法の腕はメキメキと上がっていた。

 基本属性の全てに生活魔法の適性があった訳だが、攻撃魔法にも適正があったのだ。そのため、初級魔導書に書いてあった魔法は全て使うことが出来る。



「――――、火球!」


 俺が魔法を打ち終えた後、新たに魔法を放つ声が聞こえる。俺が去った後に火魔法を放っていたのは、サヴァルであった。

 サヴァルは、俺に仕えた頃は水属性と風属性の魔法が得意で火属性は生活魔法が出来るくらいであった。しかし、火魔法の攻撃魔法魔法を放っている。

 サヴァルは、俺と出会った頃に比して、適性のある属性が増えていた。それは、サヴァルが魔法の練習に打ち込んでいたからかもしれない。

 サヴァルが魔法の練習に力を入れる様になったのは、俺が魔力適性検査の結果、基本属性の全てに適性があったのが判明してからだ。

 俺が3歳にして、基本属性の全てに適性があったことで、彼にとって思うところがあったのかもしれない。魔法の練習に励む様になったことで、魔力適性がほぼ確定されるとされる15歳の魔力適性検査では、闇属性を除いた基本属性の適性を獲得している。

 その後、適性のある属性の攻撃魔法も使える様になっていた。


ユクピテ卿、サヴァルの魔法の腕は、どうなのだ?」


「サヴァルの魔法の腕は、メキメキと上がっております。若様の影響がかなりあるでしょうな。負けてはならぬと魔法の練習は欠かしておりません。

 家令殿も子息が基本の4属性に加えて、光属性まで使えたことで、誇らしげにしておりました」


 俺に仕える家臣たちは、ユクピテ卿の監督の下、魔法練習場で練習をしているため、ユクピテ卿が彼らの魔法の習熟に最も詳しい。

 サヴァルは年下の俺に負けじと魔法の練習を頑張っている様だ。

 貴族の社会では、魔法の適性が個人の評価に繫がることが多い。そのため、基本4属性の全てを使えるだけで、かなり評価が高いのだ。加えて、光属性と言う適性の少ない基本属性が使えることで、更にサヴァルの評価が上がっている。

 サヴァルは魔法の適性の数だけで言えば、クヴァファルーク家の家臣たちで最も数が多いのだ。そのため、筆頭家臣である家令は自慢の種にしている。


「その分、サヴァルを妬む者は多いだろうな」


「左様にございます。特に面白くないのは、サヴァルの2人の兄でございましょう。サヴァルの魔法適性が上がったことで、兄たちと比べても賢いと言われていたのに、世子である若様の側仕えになったことで、上の兄たちとの関係は悪い様です」


 サヴァルは三男でありながら、上の兄たちより賢く才能のがあるとされていた上、魔法適性の適性も多かったことで、元々良くなかった兄たちとの関係が悪化した様だ。噂では、家令の後継ぎはサヴァルにした方が良いのではと囁かれているそうだ。

 加えて、俺の従僕として側近になったことで、兄たち以外からも妬まれていると言う噂は耳にしている。



「これは、これは若様。魔法の練習なら、我らにお申し付けくだされば良いものを」


 俺とユクピテ卿がサヴァルの魔法を眺めながら話していると、後ろから俺に声を掛ける者がいた。

 俺とユクピテ卿が振り向くと、目の前には太った豚の様な男が2人いる。彼らはクヴァファルーク家の分家であり、魔法の教師役的な立場のブフォッルキオ家の当主と嫡男であった。


「ブフォッルキオ卿、何故ここにおる?今は若様が魔法の練習でお使いだ」


 ユクピテ卿が親豚に何故いるのかを問い詰める。俺の魔法練習の際には、世子付きの家臣以外は使用してはならないと家令が家中に通達していた。


「何を申す、ユクピテ卿よ!我がブフォッルキオ家は、クヴァファルーク家の魔法指南役。若様に魔法を教えるのは、我らの役目ぞ!」


 親豚は、俺に魔法を教えるのは自分たちの役目だと主張する。子豚も親豚の主張に同意して囃し立てていた。


「何が魔法の指南役だ!其方の親の代には、魔法指南役を解任されておるでは無いか!」


 ユクピテ卿は親豚の主張を指摘する。その後はユクピテ卿と親豚の分家同士の言葉の応酬が始まった。一方的にユクピテ卿の主張が正しいのだが……。

 ブフォッルキオ家は、親豚の祖父にあたる初代が魔法に優れていただけで、親豚の父の代には魔法指南役の地位を剥奪されていた。

 親豚の父は、魔法の指導の報酬に割に合わない礼物賄賂を要求していたのである。初代に比べて魔法の才能も無く、怠惰で魔法の練習をしない先代豚は、家中で魔法を教える技量も指導力も無く、不正ばかり行っていたのだ。

 ブフォッルキオ家の初代の功績に免じて、取り潰しは免れたものの、現在は没落している。しかし、当家で2冊目の中級魔導書を持っているため、その中身を知ろうと擦り寄る者もおり、少なからず影響力を持っていた。


「ユクピテ卿、覚えておれ……!」


「魔法貴族になってから出直すんだな!」


 口論に負けた親豚は捨て台詞を吐いて、子豚とともに去っていく。

 ユクピテ卿、豚親子は魔法の適性も少ないと聞くし、保有魔力も少なく、魔法の練習もしていないから、魔法貴族になるのは不可能だと思うぞ……。


 豚親子の乱入により、興が削がれたため、魔法の練習は早めに終えることとなった。定期的に豚親子が乱入してくるので、邪魔でしか無いのだが……。

 豚親子から中級魔導書を取り上げられれば、家中の者たちに更に魔法の練習をさせられるんだがな……。


 ところで、豚親子を見て、ウチの父も豚みたいな体型になっていたが、クヴァファルーク家は太りやすい体質なのだろうか?

 俺は太らない様に、なるべく武芸や運動に力を入れようと、心に誓ったのであった。

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