第21話 身体の成長と武芸指南役

「ファリー様、行きます!」


 テトが俺に対して木剣を向け、声をあげる。現在、俺とテトは武芸の鍛練で立ち合いをしていた。

 俺が7歳になったことで、乳兄弟のテトとともに武芸の鍛練が本格的に始まっている。


 テトの方が俺よりも少し早く生まれていたので、俺よりも体格は良い。父親のユクピテ卿に似た栗色の髪を短く整え、ナーリャに似た茶褐色の瞳と穏やかな顔付きをしている。その肌は日焼けして小麦色になっていた。

 クァ・スタナブヘル王国の貴族は、大陸中央部の貴族が南進して建国した国である。そのため、貴族の多くは大陸中央部にルーツを持ち、白い肌の者が多い。しかし、王国南部の貴族たちは陽射しが強いからか、クヴァファルーク領などの南部貴族は肌が日焼けして小麦色に近い白い肌の者が多かった。

 王国より更に南東に位置する南部の国々は貴族は小麦色や褐色であり、平民も殆どが同様だ。

 王国は南進して建国したためか、平民層の肌は小麦色か褐色の者が半数を占めている。

 王国においては、大陸中央部に近い北部の民は白い肌の者が多く、南部の民は小麦色や褐色の肌の者が多い。

 なので、王国最南西部に位置するクヴァファルーク領は小麦色の肌の者や褐色の肌の民が他地域に比べて多かった。

 そんな俺も、テトほどでは無いが日焼けして小麦色に近い白い肌をしている。屋外での鍛錬の他にも、テトの外遊びに付き合わされたりしているからだ。

 俺も鏡に映った最近の自分を見たが、一度だけ見たマトモな頃の父には似ておらず、白に近い金と緑が入り混じった様な変な髪色に翡翠色の瞳で細面な顔付きをしている。家臣たちの話では、母親そっくりだそうで、北部貴族に見られる特徴だそうだ。

 母は北部貴族出身だったそうで、父の一目惚れで求婚したらしい。そこには政治的思惑は考慮されておらず、祖父や家臣たちは頭を抱えたそうな。そのため、父の代から周辺貴族との関係はあまりよろしくないとのことである。

 母は相当細い身体付きだったそうだが、俺は極端に細くは無い。そのため、武芸の鍛錬に支障は無かった。

 精悍だった父に似たのか、北部貴族は体格が良いそうなので、母方の血がなのか、取り敢えずは不遇では無いので良しとする。



「えぇい!とぉおぉ!」


 テトが俺に木剣で斬り掛かってくる中、俺は最低限の動きで躱す。この動きも武芸の鍛練で習ったものだ。

 大人の振り下ろしなら避けるのは困難だが、テトの様な子供で未熟な動きなら、容易く躱せる。

 テトの斬撃を避けた俺は、テトに足を掛けると、テトは転んでしまう。俺は、転んだテトに剣を突き付けた。


「そこまで!」


 武芸の指南役の男が立ち合いの終了を告げる。

 立ち合いが終わったため、俺はテトに手を差し出し、起き上がらせた。


「やっぱり、ファリー様にはまだ叶わないや」


「そんなことは無いぞ。テトの振りもかなり鋭くなってきたので、躱すのが難しくなってきた」


「そうかな。素振りは毎日欠かさずやってるからね」


 テトは努力家なので、武芸の鍛練や素振りは欠かさずやっているらしい。父親のユクピテ卿も厳しそうだしな。

 大人の感覚で見切っているだけで、努力を積み重ねているテトには、いずれは武芸の腕は追い抜かれてしまうだろう。

 テトには親譲りの才能があり、努力を惜しまない姿勢から、俺より武芸が上達することは容易に想像出来た。


「2人とも、かなり上達してきましたな」


 武芸の指南役であるジュスピール・ザス・カァッタルファが俺たちの武芸が上達したことを褒める。

 この男は、クヴァファルーク家で代々、武芸の指南役を務めている家の一族だ。当主と嫡男は成人した貴族やチャルカンを指導しているため、一族の一員である彼が子供の俺たちを指導している。因みに彼の愛称はピールだ。

 ユクピテ卿も武芸は達者であるが、傅役と乳兄弟の父親と言うことで、武芸の指南に適していないと述べ、彼を指南役として連れて来た。


「2人とも動きは良くなってきたし、子供用の剣の扱いも最低限は出来る様になってきました。一度は武器とはどういうモノか体験してみても良いかもしれませんね」


 ピールは不敵な笑みを浮かべ、ユクピテ卿と相談してから決めるので、それまでは子供用の剣の扱いと鍛練を欠かさない様に告げたのであった。

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