第20話 7歳を迎えて本格始動
「若様、御誕生日おめでとうございます!」
俺はユクピテ卿たち家臣団に7歳の誕生日を祝われていた。ユクピテ卿、家令を中心とした領主派の家臣たちばかりで、領主派と距離を置いている分家や家臣たちは参加していない。
俺にとっては、いつも通りの誕生日だと思っていたが、家令の話では異常な状態だそうだ。そもそも、この世界での俺の父親が参加していない。本来なら有り得ないことではあるが、俺の生母が産後の肥立ちが悪く亡くなってしまってからおかしくなってしまった。生母が死んだのは俺のせいだとすら思っている。
一度、父を遠目に見たが、母が亡くなった後に、俺へ罵声を浴びせた面影は無くなっていた。あの時の父は憔悴はしていたものの精悍な身体付きをしていたのだ。
父は母が亡くなったことで、無気力となり、領主の務めを果たさなくなった。そして、酒に溺れ、暴飲暴食に走ってしまったのである。
遠目に見た父は部屋の中で豚の様に肥え太った醜い姿であり、あれが今の父の姿であると家令に教えられて驚愕したものだ。
父がおかしくなったことで、領主としての務めである周辺の貴族たちとの社交すらしなくなってしまった。世子である俺の誕生日も親交のある貴族や周辺貴族を招いて誕生日を祝う宴が催されるそうだが、俺が生まれてから一度も行われていない。
父がおかしくなってから、家臣たちも分裂し、家令とユクピテ卿を中心とした領主派が領地経営を何とか回していた。非領主派の分家や家臣たちの中には、好き勝手している者もいる。
クヴァファルーク領は微妙なバランスで成り立っている様な状況であり、俺の誕生日の祝いも領地の状況が反映されたものとなっていた。
「若様も7歳になられましたから、武芸の鍛練も本格的に始めていただきますぞ」
「
傅役のユクピテ卿は、俺が7歳になったことで、領主貴族として武芸の鍛練を本格化したい様だが、俺としては魔法の練習をしたかった。
一応、6歳になった時に中級魔導書を読ませてもらえる様になったが、中級魔導書に書かれている魔法を使わせてもらったことは無い。それどころか、初級魔導書に書かれている攻撃魔法でさえ、使わせてもらえる様になったのは、5歳の終わりに近付いたぐらいだ。
「ユクピテ卿も若様もほどほどにしてくださいませ。若様に大事あっては、御家の将来に関わります」
「家令よ、家の未来を思うなら、上級魔導書を手に入れて欲しいのだが」
家令は、俺とユクピテ卿を宥める、俺に何かあっては大変だと述べる。確かに領主派の家臣たちにとって、世子である俺に何かあっては大変であろう。
しかし、俺は家令に対して、クヴァファルーク家の将来を思うなら、上級魔導書を手に入れて欲しいと言った。クヴァファルーク家には、中級魔導書まではあっても上級魔導書は無いのである。
中級魔導書も2冊しか無く、1冊は領主家用で領主と子息たちしか読めない。父と俺しか読めない状況である。俺が読んでいる中級魔導書が該当する。
もう1冊は、魔法指南役の分家が管理しているそうで、家臣たちは中級魔導書の内容については、その分家で教わるしか無いそうだ。しかし、その分家は皆に嫌われている上に、本人たちも中級魔導書に書かれている魔法を使えないそうなので、豚に真珠の状態らしい。
その様な魔導書の状況なので、クヴァファルーク家では魔法の練習は盛んでは無く、武芸に偏りがちな傾向にあった。
「若様、上級魔導書となりますと王家や上級領主貴族、魔法貴族、魔法を教える学校などにしかございませぬ。当家の規模の領主貴族が持っていることの方が稀にございます」
俺は誕生日の贈り物に何が欲しいかを遠回りに聞かれたので、上級魔導書が欲しいと答えたのだ。しかし、高位身分の貴族や魔法に特化した貴族家や機関にしか無いらしい。そのため、上級魔導書を手に入れることは断られていた。
今、家令に上級魔導書は手に入れられないと諭されてしまったが……。
「若様、上級魔導書は諦めてくだされ。その代わり魔法の練習の機会を増やして差し上げますので……。魔法だけで無く武芸にも勤しんでいただきますが」
俺がまだ上級魔導書の話をするので、ユクピテ卿が俺を宥めるべく、魔法の練習の機会を増やすと言った。ユクピテ卿よ、確かに言質はとったぞ。
武芸についても、5歳から徐々に身体作りを行い、6歳からは素振りなどを始めていた。6歳の終わり頃には、指導役による立ち合いの動きの指導や軽い打ち合いも行われる様になっている。
7歳になって、ある程度動ける様になると子供用の剣を持って素振りや弱らせた弱い魔物と戦わせるそうだ。
こうして、俺が7歳になったことで、魔法の練習と武芸の鍛練を本格的に行われることになった。今まではやりたくても、かなり制限されていたので、俺としては今後の生活が楽しみで仕方無かったのであった。
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