第13話 初めての魔導書と魔法の披露
「ファリマテク様、魔導書をお持ちしました」
勉強の時間となり、サヴァルが魔導書を持ってやって来た。俺がユクピテ卿とサヴァルから魔法についての話を聞いた後、3ヶ月ほど経っている。
文字自体はすぐに覚えたものの、単語が分からないと本は読めない。そのため、本を読むのに最低限の単語を覚える必要があったのだ。
それでも、文字と単語の習得の早さには、ユクピテ卿やサヴァルたちを驚かせてしまったが。家令もやって来て、俺の将来が楽しみだと誉め讃え、クヴァファルーク家の将来も安泰であると喜んでいた。
「まど〜しょって、ボロいね」
サヴァルが持って来た魔導書は薄く、擦り切れや解れが目立つ古びた本であった。
「申し訳ございません……。これでも状態の良いものを持って来たのですが」
サヴァルの説明では、初級の魔導書は何冊かあるものの、多くの
目の前にある初級魔導書は、当主家や有力家臣が使うための本だそうで、所蔵されている中では良質な本だそうだ。
「若様、魔法の訓練場に参りましょう」
ユクピテ卿が俺とサヴァルに対して、魔法の訓練場へ赴くことを促す。
今日は、初めて魔導書を読むと言うことで、実際に魔法を見せてくれるそうだ。魔法の危険性を体験して欲しいとのユクピテ卿の配慮であった。
ユクピテ卿の息子である乳兄弟のテトも同行しており、彼は初めて魔法を見ることが出来るからかワクワクした様子を見せている。
「ふぁり〜さま、まほ〜たのしみ♪」
テトは俺に魔法を見るのが楽しみだと頻りに語っていたが、今日が最高潮の様だ。しかし、テトはまだ文字も単語も覚えられていないので、魔導書を読むことは出来ないが。
俺が魔導書を読む時間は、テトは今まで通り、文字の勉強をする予定だ。テトは父母にグズっていたものの、俺の様に文字と最低限の単語を覚えたら、魔導書を読ませると諭されていた。
俺たちは城内の中庭とは別の庭に赴き、そこにある魔法の訓練場へと辿り着く。魔法の訓練場は土壁に囲まれており、入口から見て奥には、魔法の的と思しき藁人形が立っている。
「こちらが魔法の訓練場です。宮廷貴族の家臣たちは、こちらで魔法の練習をしています。奥の的に魔法を放つので、術者より前には進まないで下さい」
俺たちは、ユクピテ卿から魔法の訓練場での注意事項を説明される。色々と細々としたルールがある様で、意外と時間が掛かった。
そして、ユクピテ卿が手本として魔法を披露してくれる。
「……………………、火球!」
俺たちはユクピテ卿の後方で、魔法が観える位置にいた。そのため、ユクピテ卿の詠唱は聞こえない。ユクピテ卿は俺とテトが真似をしない様に、ワザと詠唱を小声で呟いている様だ。
そして、彼が「火球」と唱え、手のひらを前に出すと、その先から火の玉が現れ、奥の藁人形へと飛んでいった。火の玉は藁人形に当たると、炎上し燃え尽きる。
俺とテトは、その光景を呆然と見つめていた……。
「すご〜い!と〜さま、すご~い!!」
俺よりも先に我に返ったのは、テトの方であった。テトは父親の魔法を見て興奮している。そして、父に駆け寄って行った。
術者に向かって駆け寄るのは、訓練場のルールに反しているのだが、テトが純粋に自身の魔法を称賛していることが嬉しいのか、ユクピテ卿は苦笑を浮かべながら、優しげにテトを叱っている。
「若様、お分かりいただけましたかな?魔法が危険だと言うことを。幼子が扱うには危ないのです」
「わかった……。じぃのいうとおり、まほうはきけん……」
初めての火魔法に、俺は驚いていた。今まで、こっそりと風魔法を使っていたが、火魔法を使わないでいた自身の判断は正しかった様だ。
「若様が魔法は危険だと言うことを分かっていただけた様で何よりです。それならば、魔導書を読んでもよろしいでしょう」
ユクピテ卿は、俺に笑いかけると、魔法の危険性を理解した俺が魔導書を読むことを認めたのであった。
こうして、俺は魔導書を読むことを認められた訳ではあるが、様々なルールを課せられた。
まず、魔法の詠唱は決して口にしないこと。これは、幼子とは言え、魔力を有する貴族の子供が魔法の詠唱を口にしてしまったら、発動してしまうかもしれないからだ。
また、何か異状を感じたら、すぐに知らせること。俺はまだ魔法を発動したことが無いことになっているので、魔法を発動する感覚や魔力の操作が分からないと言うことで、読んでいる間に魔法を発動してしまうかもしれないからだそうだ。過去に、魔導書を読んでいただけで、魔法が発動してしまい、家諸共焼け死んでしまった貴族の子供がいたとか。
その他にも様々なルールを課され、魔導書の読書が許されることとなったのであった。
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