第7話 1歳の誕生日
「ふぁりーたま」
テトが俺の名前を呼ぶ。テトも1歳になる前に立ち歩きが出来る様になり、1歳になったぐらいで喋れる様になった。
テトが1歳になったことで、俺が1歳の誕生日が近付いていることを乳母夫妻から告げられている。乳母夫妻からは、俺が1歳になった祝いが行われないことを憐れまれていた。やはり、父が私を嫌っていることや父の政務や他貴族との交流の無関心が悪化している様で、暴飲暴食も重なって酷い有様らしい。
取り敢えず、1歳の祝いは仕方無いとして、この世界なのか、この国なのかは分からないが数え歳が採用されていないことは分かった。
そして、俺が1歳の誕生日を迎えた日、俺の元へある人物が訪ねてきた。
「若様、お久しゅうございます」
目の前に現れたのは、父が俺のところを訪れたときに同行していた家臣だ。父の側近なのだろう。口髭を蓄え、髪を後に流したジェントルマンな感じの人物だ。以前は仕立ての良い喪服を身に纏っていたが、今回は武官と言うよりは文官と言える様な中世ヨーロッパっぽい服装をしている。乳母夫であるユクピテ卿は、いつも動きやすい武官っぽい服装なので、文官っぽい人物は初めて目にした様に思える。
「若様、本日は御誕生日おめでとうございます。家臣一同、心より御喜び申し上げます」
文官の男は、恭しく礼を執ると俺の誕生日を祝う言葉を述べた。文官の男は、家臣一同を代表して訪れたのだろう。家中でも高位の
家臣だと見受けられる。
「家令殿、
「いえいえ、ユクピテ卿の御立場を察するに、御当主様自ら訪れないことを御不満に御想いでしょう」
「御当主様が訪われぬのは承知のこと……。家臣を取り纏める家令殿が来てくださったのが有り難いのだ……」
文官の男とユクピテ卿の遣り取りを聞く限り、文官の男は家令だった様だ。我がクヴァファルーク家の筆頭家臣である。
ユクピテ卿は乳母夫として、俺に代わって誕生日の祝いに感謝を伝えているが、何となくそれだけでは無さそうだ。
父が訪れないことは問題であり、乳母夫としては不満に想い、家令が来たことに家中での政治的意味があるのかもしれない。
「御当主様は、奥方様を亡くされてから、
「確かに、若様がクヴァファルーク家の希望であるのは確かだ……。若様に何かあっては、次代がどうなることか……。ヤツが戻ってくるとなると、大変なことだぞ……」
「左様にございます……。御当主様の次代があの方になることだけは避けねば……。ともかく、ユクピテ卿には若様の御教育と警護を頼みますぞ」
「うむ、相分かった」
父が政治に無関心になってしまったため、家臣たちにとっては、跡継ぎの俺が唯一の希望らしい。
それよりも、不穏な言葉が聞こえてきた。俺に何かあった際に、次の当主になるかもしれないヤツがヤバい様だ……。ユクピテ卿と家令はその人物を気にしているのだろう。この二人がそのことを話していると言うことは、家中ではそういった認識に違いない。俺の親戚なのだろうが、そんなヤツとはなるべく関わりたく無いな……。
そのため、家令はユクピテ卿に俺の教育と護衛について念押しをしていた。
「若様、放ったらかしにしてしまって申し訳ございません。こちらは、分家の方々や家臣たちからの贈り物になります」
家令は俺を蚊帳の外にしていたことを詫びると、彼の部下たちに合図を送る。彼の部下たちは荷物を持って部屋に入ってきた。彼等が持ってきたのは、家令が取り纏めていた家臣たちからの誕生日プレゼントらしい。領主家の後継者の誕生日プレゼントと言うこともあり結構な量だ……。
「家令様、ありがとうございます」
乳母のナーリャが俺に代わって礼を述べる。礼を乳母夫妻にだけさせるをは申し訳無い。
「かれ〜、ありがと」
俺も礼を述べると、家令は嬉しいそうに笑顔を浮かべ、恭しく対応すると部屋を出ていった。
ナーリャは俺の誕生日プレゼントを開けてて喜ぶと、俺に見せてくる。服や玩具などがあり、俺の世話をしているナーリャにとっては子育てするのに喜ばしい品々なのだろう。
家令を代表として、家臣たちに誕生日を祝われたのは嬉しかった。しかし、父には嫌われているのか、会いにすらこない。そして、俺の次に継承権を持つ人物がヤバいヤツだと言う不穏な情報を知ってしまった。
俺の今後の生活は、どうなっていくのだろうか……?
こうして、俺はこの世界に転生して1年が経ったことを実感させられたのであった。
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