第6話 詠唱短縮魔法?と魔法の危険性

「な、なり…。なりゃ」


「まぁ、ファリー様、お喋り出来る様になったのですね!」


 9ヶ月が過ぎ、俺は言葉を発せる様になった。まぁ、まだ単語だけではあるが……。

 しかし、最初に発した言葉がナーリャの名前であったため、乳母は歓喜している。

 俺にとって、最も身近な人間はナーリャだから、致し方あるまい。次はテトかユピテル卿の名前でも呼ぶのが無難なのだろうか?


 赤子の身であるため、怪しまれない程度に話すのが難しい。発声器官が未熟であるため、流暢に話したり、文章にして話せないのが面倒だ。


 俺の側にはテトがいるが、テトはまだ立ち歩きもお喋りも出来ずにいた。テトの両親である乳母夫妻は、俺の様に立ち歩きしたりお喋りしないことを嘆いてはいない。

 乳母夫妻には、テトの他に二人の男子がおり、兄たちの成長の経験から、まだ立ち歩きしたり、話せないのもおかしくないことは分かっているのだろう。

 逆に、俺が立ち歩きしたり、話したりするなど、俺の成長の早さに驚いている。


「あぁ、あ~うぅ〜」


 テトが俺に話し掛けてきた。何を言っているのかサッパリ分からないが、何となく遊んで欲しがっているのだろう。

 俺は、テトの求めに応じて、遊ぶこととした。


「まぁ、まぁ、ファリー様はテトの御兄

様の様ね。テトの方が少し早く産まれたのに」


 ナーリャは、俺がテトに構っている様子を微笑ましく眺めている。ナーリャの言う通り、テトの方が2週間ほど早く産まれているのだ。まぁ、そうでないと産まれたばかりの俺に乳を与えられない。俺と同じぐらいの時期に産まれるからと、分家筋の妻であるナーリャが乳母に選ばれたのだろう。



 俺は単語だけとは言え、話せる様になったことで、行動の幅が増えることとなった。乳母夫妻や女中に俺の意思を伝えることが出来る様になったので、多少は思い通りに過ごせることが増えた。

 中庭など部屋の外への散歩も、俺が望むことで回数が増えている。その分、ユクピテ卿の負担が増えてしまってるのは申し訳無いが……。


 俺の意思を他人に伝えることが出来る様になった以外にも、俺に恩恵を齎している。密かに鍛錬している魔法に応用したのだ。


「かぜよ!」


 ビュゥッ〜!


 詠唱と言うか、言葉を発するだけでも、魔法の威力が高まったり、魔力の伝わり方が良いことが分かった。言葉を発さずに魔法を使っていた時より、身体の魔力の消費が少いのが感じられる。言葉に出した方が頭でイメージしやすく、発動が容易なのかもしれない。

 俺は言葉を発した場合の魔法の威力の調整を身体に覚え込ますことにした。



 俺は密かな魔法の鍛錬で少しずつ魔力が高まっていることを実感し、風魔法だけでは飽き足りなくなってきていた。

 他の魔法も使ってみたくなったのである。しかし、火、水、光などの魔法は、俺が魔法を使っているのがバレるかもしれない。そして、土魔法は部屋だと使えそうになかった。

 となると、鑑定魔法や探知魔法だろうか?そもそも、この世界に鑑定魔法や探知魔法があるのか分からない。しかし、鑑定魔法や探知魔法が使えたら、強いんじゃないかと思った。

 よし、鑑定魔法を使ってみよう!


「かんてい!」


 俺は自身の寝床である揺り籠を鑑定してみる。鑑定のイメージを思い浮かべ、鑑定魔法を唱えてみた。

 すると、頭の中で『揺り籠』と浮かんだ。鑑定に成功したのである。鑑定魔法はラノベやアニメにありがちな、目の前にウィンドウが浮かぶタイプでは無く、頭に思い浮かぶものの様だ。

 俺は面白がって他のモノも鑑定してみたが、すぐに鑑定魔法に飽きることとなった。俺の鑑定魔法が悪いのか、モノの名前ぐらいしか情報として頭に浮かんでこないのである。そもそも、鑑定魔法がその程度のものなのか、実態が分からない以上、俺にとっての鑑定魔法とはモノの名前が分かる程度の魔法でしかなかった。

 あと、鑑定魔法で分かるのは、人の年齢くらいだろう。テトで試したところ0歳と出てきた。ナーリャに鑑定を試したところ、20歳と言うことに驚いた。もう少し老けている様に見えていることは黙っておこう……。

 ユクピテ卿を鑑定したところ、26歳で俺は30代ぐらいだと思っていたので、この世界の住人は老け顔なのかもしれない。


 鑑定魔法に成功した俺は、探知魔法を使ってみることにした。周囲の状況を探る様なイメージで……。


「たんち〜!」


 探知と唱えたところ、魔力が消費されるのを感じる。しかし、今まで感じたことの無い消費量であるとともに、俺の頭に急速に大量の情報が流れこんで来るのが感じられた。ハッキリ言って、今の自分では処理しきれないのが本能的に分かる。

 そして、俺は気を失った……。


 目が覚めると、ナーリャが心配そうな表情で俺を見ている。俺が目覚めたのに気付くと、ナーリャは安堵の表情を浮かべる。俺は長い間、気を失っていた様だ。俺は、ナーリャを心配させてしまったことを後悔し、探知魔法の鍛錬は封印することにした。

 後々に分かることだが、探知魔法は対象や範囲をしっかりと定めて使わないと脳が焼き切れてしまうかもしれない魔法だそうだ。俺は魔法書を読まずに魔法を使うことの危険性を身を以て体験したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る