第5話 クヴァファルークの城と町

「まぁ、ファリー様は歩ける様になられて!」


 8ヶ月ぐらいが経ち、俺も立って歩ける様になった。そのため、乳母のナーリャが喜びの声をあげる。

 8ヶ月だと元の世界だと早い方だろう。乳兄弟であるテトは、つかまり立ちは出来るものの、まだ立って歩くことは出来ない。

 立ち歩きは出来る様になったものの、頭の比重が重いため、バランスを取って歩くのが前世に比べて難しい。

 しかし、立ち歩きが出来る様になったことで、部屋の中を歩き回ることが出来る様になった。

 

 俺のいる部屋はそこそこの大きさで、部屋の壁は漆喰塗りで、床は木で出来ている。部屋の窓は瓶底ガラスと鉄枠で出来ており、中世ヨーロッパ後期頃の様な感じだ。ガラスの透明度が低いため、窓の向こうの景色を眺めることは出来ず、ただの明り取りの窓となっている。

 部屋の中には、俺とテトの揺り籠と乳母用のベッドが置いてあり、乳母のために机や椅子なども用意されていた。

 一応は暖炉も用意されているものの、使っているのを見たことが無い。俺の住んでいる地域は温暖なためなのか冬が短く、それほど寒くはならない様だ。



「ファリー様、お外へ出てみましょう」


 乳母夫のユクピテ卿が部屋を訪ねてきたところ、ナーリャは俺に外に出ようと声をかけて来た。

 すると、俺を抱き上げてる。彼女の息子であるテトは、女中が抱き上げていた。

 何度か部屋の外に出たことがあるものの、将来の傅役である乳母夫のユクピテ卿がいないと出してもらえない。外に出る時はユクピテ卿が同行しており、護衛を担っていた。


 部屋の扉を開けて外に出ると、ほの暗い廊下に出る。廊下の壁は部屋の中と同様に漆喰塗りであるが、明り取りの窓はガラス窓では無く、木枠で開け放たれたままだ。

 廊下を歩き、階段で下の階に降りる。下の階は、壁が石組みであり、石も石垣の様な不規則な石が積み上げられたものである。

 窓も上階の窓より小さく、防御用の城といった感じだ。某海外ファンタジー映画や中世ヨーロッパのゲームの様な、これぞ中世の城と言う様な内装である。

 上の階は、領主など貴族の居住層になっているため、部屋は明り取りの瓶底ガラス窓や漆喰塗りの壁になっていて、居住性が高めてあるのだ。


 更に下の階に降りていき、中庭へと出る。中庭は馬場や兵士たちの訓練場などが置かれており、その周囲を石壁や丸太が組み合わされた壁に囲まれていた。

 振り返って、俺たちが出てきた城を見上げると、4階建てぐらいの城が聳え立っている。上の2層は居住や政務のスペースなのだろう、外壁も漆喰塗りの壁だ。下2層は、石を積み上げ、繋ぎ目を漆喰で固めた防御を重視したものの様に見受けられる。

 クヴァファルーク家の使用人の中でも、下級の者や兵士などは下層に居住しているらしい。


 俺たちが出てきた中庭は、厩舎などが置かれているため、馬が常におり、饐えた臭いを発している。中庭の片隅には、鶏の籠などが積まれ、中庭の中を鶏が放し飼いにされていた。

 乳母夫妻は、俺たちを馬に近付けると、馬は赤子に興味を持ったのか、俺たちに顔を寄せる。


「ユクピテ卿、若様たちを連れてお散歩ですかい」


 髭を生やした小汚い男が、ユクピテ卿に声をかけて近付いてくる。この男は、この城の馬の世話係である馬丁たちの頭だ。何度か顔を合わせたことがある。


「あぁ、若様も部屋の中だけでは可哀想だからな。これから、城壁へと上がろうと思っておる」


 ユクピテ卿は、馬丁頭に言葉を返すと俺たちを連れて城壁へと向かう。城壁へ向かう途中で、ユクピテ卿は兵士たちに挨拶をされる。ユクピテ卿は兵士たちにも人望があるのだろう。

 俺たちは、城壁の側の階段へ辿り着くと、階段を上がる。城壁の上ると、兵士たちが城壁の上を警備していた。

 警備していた兵士は、ユクピテ卿の姿を確認すると報告をする。


「ユクピテ卿、異状ありません」


「御苦労。そのまま警備にあたってくれ。私たちは若様に町を観せにきただけだ」


 ユクピテ卿は兵士を労うと、俺たちを連れて町を一望出来る位置へと進む。俺はナーリャに抱かれて、城壁の外にある町を眺める。

 俺がいるクヴァファルークの城は丘の上の高台にあり、その麓に小さな町が広がっていた。

 その町も中世ヨーロッパ風のドラマやゲームの町の様な光景だ。大きい町では無いため、平屋でみすぼらしい家屋が立ち並んでいる。2階建て以上の建物は数える程度しかなかった。

 遠目に観ても綺麗とは言い難い小汚い町。それがクヴァファルークが治める町であった。


 この中世ヨーロッパ風の小汚い城と町がクヴァファルーク家の首邑であり、この世界で俺が知っている全ての世界であった。


 

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