第4話 生母の死と実父の堕落

「ファリー様は本当に大人しくて、泣かない子ね……。少し心配だわ……」


 乳母が心配気に、俺のことを見つめていた。俺が泣くのは乳を求める時か排泄の時ぐらいなので、そりゃ大人しいだろうよ。


 転生して半年ぐらい経つと、乳母たちの話してる言葉も分かるようになり、何を言っているのか分かるようになった。

 乳母の名前は、ナリャテ・ツェル・ユクピテと言うらしい。女中たちからは、ユクピテ夫人と呼ばれ、貴族の男の側近としてやって来て乳母を慰めていた男からは、ナーリャと呼ばれている。

 側近の男はナリャテの夫らしく、シャステトの父親だそうだ。側近の男はフワイダ・ザス・ユクピテと言うらしい。ナリャテからはイダと呼ばれ、女中たちからはユクピテ卿と呼ばれていた。

 因みに、シャステトは両親からはテトと言う愛称で呼ばれている。

 ユクピテ卿は、妻のナリャテと息子シャステトに会うため、頻繁に俺の部屋を訪れていた。ユクピテ卿は、俺にとっては乳母夫にあたるため、俺の様子も見に来ている。

 ユクピテ卿が俺の将来の傅役になるのか、乳母夫として夫婦で俺の身の回りの世話の責任者になっている様だ。



「御当主様、奥方様が亡くなられてから、気落ちされ、人が変わられた……」


「奥方様とは仲睦まじかったですものね……。それでも、ファリー様に先日の様な対応をされたのは許せないわ」


「その様に申すな。御当主様とてツラいのだ。産後の肥立ちが悪く、奥方様が亡くなられ、悲しみの矛先を誰にも向けることが出来ず、つい若様に鬱憤をぶつけてしまわれたのであろう」


 とある日の、ユクピテ乳母夫妻の会話を聞くと、俺の生母は産後の肥立ちが悪く、亡くなってしまったらしい。そして、あの日、俺のところにやって来た貴族の男性は俺の実父だった様だ。

 実父は、妻の死に対する悲しみを誰にもぶつけることが出来ず、妻の生命と引き換えに産まれてきた俺に対して、感情をぶつけてしまったのだろう。

 その後の夫妻の会話を聞くと、俺が転生してからユクピテ卿が部屋を訪ねて来なかったのは、生母の体調不良で実父の政務の補佐や生母の葬儀の準備などに追われていたからの様である。


「御当主様は、奥方様が亡くなられたことで気落ちされ、政務に関心が無くなってしまわれた。今では、暴飲暴食の日々を送られておられる。そのため、家令殿も困惑しておった」


 実父は、生母の死のショックで貴族として政務を行うことを拒絶してしまっている様だ。しかも、暴飲暴食を繰り返しているらしい。ダメ貴族になってしまったため、家臣たちも困惑するのも当然だろう。


「このままでは、クヴァファルーク家と領地はどうなってしまうのでしょう……。ファリー様も御不憫にございます……」


「分からぬ。取り敢えず、ユクピテ家はクヴァファルーク家の分家筋にあたる故、御家のために尽くすしかあるまい。私も家令殿に協力して政務の補佐をせねばならぬ。若様とテトのことは頼んだぞ」


 実父が政務を執ることを拒絶してしまっているため、クヴァファルーク家と領地には不穏な空気が漂っている様だ。

 乳母夫妻は、俺の家の分家筋にあたる家だと言うことが分かったが、だからこそ領地が混乱しない様に政務を補佐しないといけないのだろう。



 生後半年が経って、大人たちの言葉が分かるようになったが、産まれて早くに生母を亡くし、実父からは罵声を浴びせられたことを知ってしまった。

 その上、実父は妻の死がショックで領主貴族としての職務放棄までしてしまい、家臣たちの間は不安に感じている様だ。

 このまま、俺がこの世界で無事に成長出来るのか不安になってきたんだが……。

 どんな不幸な未来が訪れたとしても、俺が生き残るため、魔法の腕を磨かなければならないのかもしれない……。

 

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