幼馴染を愛せば穴二つ

リヒト

深い沼

 お天道様が輝くはずの太陽が分厚い雲によって隠されている、そんな日に。

 自分の幼馴染であり、姉弟のような関係性で育ち……今も共に暮らしている僕が異性として愛している女の子が。


「じゃあ、彼氏とデートしてくるね!」


 そんな子が僕とは違う男と愛し合うため、家を出るところだった。


「うん。いってらっしゃい」

 

 僕はそんな彼女に向けて笑顔を浮かべ……口を、開く。


「うん。いってくるね。お留守番よろしくね」


「もちろん。任せてくれていいよ」


「ふふふ。ありがと……愛しているわよ」


「あのさぁ……それは異性として、だよね?」


「もっちろん!異性としてに決まっているでしょ?」


「もー、お姉ちゃん。それはこれから彼氏とデートしに行く女のセリフじゃないよ?」


「そんなの今更だよ!じゃあ、いってくるね!大好き!」

 

 お姉ちゃんは天真爛漫な笑みを浮かべ、僕に愛を伝えてから家を出ていってしまう。


「……」

 

 諦める、べきなのだろう。

 お姉ちゃんは別の男と愛し合い、笑い合い、交わるのだ。

 僕の付け入る隙などない。

 それでも。

 それでも、それでも、それでも。

 僕はお姉ちゃんが好きだった。心の底から愛していた。

 

 きっと傷つくだろう。

 きっと報われないだろう。

 

 何度も願った。何度も思った。

 

 お姉ちゃんのことを好きでいたくない。好きであることをやめたいと。

 

 だが、どれだけ願っても僕のお姉ちゃんを愛する心は終わらなかった。


 「愛しているよ……お姉ちゃん」

 

 誰も居なくなった家の中で……僕は小さく愛の言葉を告げる。


 ブー。

 

 つまらない己の愛の言葉をかき消すように僕のスマホが、鳴った。

 ──からだった。


 ◆◆◆◆◆


 お天道様が輝くはずの太陽が分厚い雲によって隠されている、そんな日に。

 自分の幼馴染であり、姉弟のような関係性で育ち……今も共に暮らしている私が異性として愛している男の子が。


「へぇ……そうなんだ。やっぱり君は良い子だね。そんな子と入れて僕も嬉しいよ」


 そんな子が道端で女の子と共に歩いている姿を見かけてしまう。


「えへへ……そう言ってくれると嬉しいな。ねぇ、私のこと好き?」


「うん。もちろん好きだよ?」


「な、ならさ……その私たちも真剣に……」


「ほら、僕たちはまだ高校生だから……ちょっと早いかも?」


 二人の距離は恋人の距離であり、愛し合う男女にしか見えない。


「……っ」

 

 ずきりと自分の胸に痛みが走ったのを知覚する。

 

「……馬鹿、ね。私は」

 

 私には彼氏だっている……あの子に彼氏がいることだって話している。

 なのに、私は常にあの子のことを考え、ずっと愛している。

 

 私は心の底からあの子を異性として、彼だを愛していた。彼氏に対する愛など一切なかった。

 でも、あの子はいつも色々な女の子に囲まれ、愛し合い、抱き合っている。

 私の恋は彼に届かない……届くはずがない。

 

 忘れるべきだ。考えないべきだ。

 

 でも、忘れられない。常に考えている。

 どうしようもなく惹かれてしまう。


「帰ろ」


 私は一体何がしたいのだろうか?

 あの子と付き合いたい、愛し合いたい、抱き合いたい、結婚したい。

 

 ブー。

 

 そんな私の叶わぬ思いを断ち切るかのように私のスマホが、鳴った。

 彼氏からだった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 思春期を迎える血の繋がりもない二人の男女が家族のように共に暮らす一つの立派な一軒家。

 夜の終焉を知らせるように太陽が登り始める……そんな時間に。


「「あっ」」

 

 一軒家へと帰ってくる二人の男女。


「……お姉ちゃんも朝帰りなんだ」


「そうね……ねぇ、いい加減女遊び辞めな?節操ないよ?」


「週一間隔で彼氏を交換しているお姉ちゃんに言われたくないよ?」


「もう!私の心配は良いの!」

 

 二人の男女は……心の奥底で愛し合う二人の男女は互いに笑みを浮かべ、心に傷をつけながら家の方へと入っていた。

 愛し合い、両想いの二人……しかし、いつからか己の恋心から背を向け、他者へと逃げ続ける二人は今日も互いに傷つきながら共に一日を過ごしていく……。

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幼馴染を愛せば穴二つ リヒト @ninnjyasuraimu

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