第2話 ステータス

 「あれ?どこだここ?」


 目が覚めたら知らない天井を見上げていた。あの天井板は松だと思う。潤滑油と相克をなす松脂を分泌する松。ちょっと見上げる目つきが鋭くなってしまう。

 

 「まあいいか。」


 体を起こして室内をうかがうとなんだかコテージというか小屋というか、そういう雰囲気だ。向こう側に玄関、ってほどでもない外に出れそうなドアが見えている。

 どうしたものか考えていたらちょっときしみながらドアが開いた。


 「あ、起きてるじゃん」


 女の人の顔だけ部屋を覗き込んできた。同い年くらいかな?濃い青の瞳と目が合う。勝ち気そうな、意志の強そうな目だ。傾けた頭からさらさらと流れるロングの青い髪が外から差し込む逆光をうけて輝いている。きれいだなって思った。あかりを10とすれば6ぐらい。


 「あんた、なんか失礼なこと考えなかった?」


 一歩部屋の中に入って来た。


 「す、すいません。きれいな人だなって思ってました。」 

 「そう?こんな美人初めて見ちゃった?」


「いや、そこまでは」


「やっぱり失礼じゃん!」


 睨まれた。


 「それより、あなたが僕を保護してくれたんですか?ここ、どこですか?」


 「知らねーよ。」


バタン、とドアを閉めて出ていってしまった。

 やば。どうしよ。ちょっとやらかしたかも。

再びどうしていいかわかんない時間が始まってしまった。追いかけて謝ろうかな。でもビビっちゃうなどうしよ。


 きぃ。と音を立ててドアが開く。

良かった戻って来てくれたと思ってドアの方を見ると女の人が覗き込んでいた。さっきの子とよく似た濃い青の瞳だが、眠そうというか覇気がない。ショートにした青い髪はちょっと癖っ毛で後ろからの日光を透かして淡く光る。この子もきれいだなって思った。まあでもやっぱりあかりが10なら6かな。


 「起きてる。」


「は、はい。」


 んー、と少し思案して、


「来て。」


 と言って出ていってしまった。

 慌てて立ち上がって追いかける。

 部屋を出て振り返ると、今までいたのはなんというか洋風のお堂のような建物だった。

 急いで追いついて話しかける。

 「あ、あの、ここどこですか?僕、どうしてたんですか?」

 「んー、」

といったきり黙ったままちょっとした広場を挟んだ建物に入る。お堂と社務所って感じかな?洋風だけど。

 社務所風の建物の中はさっきの建物より生活感があった。一家族が囲めるほどのテーブルがありそこにはさっきの女性が座っていた。す

 「ん、説明して。」


「なんであたしが!」


 「仕事。」


  「お姉ちゃんもじゃん!?」


 「構築やる?」


 くっ、と言って下唇を噛んだ。


 「それに」

 「好きでしょ?異世界人」


しばらく、姉らしきショートカットと僕を交互ににらんでいたが、ため息をついて言った。


 「異世界の話は好き。でもそいつはきらい。

はぁ、まあいいや説明したげる。お姉ちゃんに任せてたら終わんないもんね。」


「よろしくおねがいします?」


一応頭を下げた。

「とりあえずあたしはリリアム、こっちは双子のおねーちゃんのノエル。あんたは?」


 「油井 潤です。よろしくおねがいします。」


 「じゃあ潤、あんた達にとって、ここは異世界。あんたも神様ににあってるんじゃない?

大抵の転移者は神様に何らかの能力をもらってこの、湖の聖域に飛ばされてくる。あたしたちはそれを保護してこうしてファーストコンタクトを取るのが仕事ってわけ。ここまでわかった?」


 え、あかりの顔した自称女神と会ったのって夢じゃないの?え、異世界って異世界で合ってたの?なんかもらったっけ?いつもの就活の面接の受け答えしかしてない気がする…


 「あんま飲み込めてない顔だね。ま、いいや、とりあえず聞いてよ。」


曖昧にうなずく。


「異世界人が来るのは年に何人かってとこかな。だからマヨネーズも石鹸も黒色火薬も間に合ってるよ。」


 どれも作り方わかんないよ。


 「まあ料理でも工学でも音楽とかでも、専門知識があるやつは王都で士官出来るけどね。あんたの身の振り方はあとでお父さんと相談してよ。さてと」


 「何でしょう?」


 「ステータスオープンっていってみてよ。」


 うっ。定番来たな。定番だけにいざ自分が言うってなったらはずかしいな。せめて誰もいないところで試したい。


 「ほらほら、なに照れてんじゃん。早く言っちゃいなよ~」


 にやにやしながらリリアムが煽ってくる。く、こいつ!

 

 「リリアム。良くない。」


 さっきまで説明するリリアムの横でウンウンと頷いているだけだったノエルが助け舟を出してくれる。


 「潤、言わなきゃ行けないのは最初だけ。あとは念じるだけで行ける。だから、一度だけ、がんばろ?」


 「く、自分で気づくまでステータスオープンって言い続けるのみたかったのに!」

 「コラ。」


 歪んだやつだな!無口なノエルはこの手のいたずらが許せないようでリリアムをこづいてる。

 しょうがない行くか!


 「ステータスオープン!」


 途端に目の前にウインドウが現れた。



油井 潤 17才


人種  トールマン


職業 就活生


ランク F


スキル 潤滑油 言語理解 鑑定 収納




 くっ、Fラン!



 



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僕の就活スタイル【潤滑油極振り】は異世界でも通用しますか? ぽく @poku032

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