第閑話 花冠式の騒動―道中の場合
――
公娼でありながら
傭兵達にとって夜街の女達は近しい相手である。
ある意味においては相棒とさえ言っていいかもしれない。
その相手が幼馴染の生意気なあの娘な男もいれば、夜街で一目惚れした高く付くあの娘な男だっている。
どんな形であれ、死地から生還する力になってくれたものすべてに、傭兵達は感謝を忘れない。
己らが
少なくとも国へ経済的な潤いを与えるという点においては、英断であった事は間違いないだろう。
「大陸の性都」などという不名誉な呼称も、笑い飛ばせてしまえるのが傭兵王国グレンの強さでもある。
実際巨大市場を形成するに至り、世界中から顧客を集める現状に倣い、他国でも似たような制度をはじめようとしている動きはあるにはある。
だが自分は愛妾を何人も持ち、公的には認められていない
笑止な話ではあるが、建国から百年がたったグレン王国内にもそういう論調の貴族が生まれつつあるというのも笑えない話だ。
事実、グレン王国の貴族の若手の中には、この「
今のところ少数派であることは自認できているので、その意見を表に出す時と場を選ぶ冷静さは保てているようではあるが。
「
王宮で行われる叙勲式は「
一人も
故に中堅以上の娼館はもちろん、新規店舗などはこの行列に参加することを至上命題としているくらいである。
そして行列では当然のこととして、昇格する娼婦を筆頭に、各娼館自慢の嬢たちの顔と躰をお披露目し、
行列順は納税額に従うというシビアなものであり、売り上げ上位の店ほど後になる。
トリを務めるのがその年一番の売り上げを誇る娼館となるわけだ。
王都グレンカイナで売り上げトップということは、世界でトップだということだ。
そして後半になればなるほど「登城行列」を一目見ようとする見物客は増える。
「登城行列」の華である「
それらの花の
貴族や国家の中枢クラスの重職、冒険者であるならばS級レベル、商人であれば国際的な規模の大商人といった、いわゆる
それくらいでなければ彼女らの顧客になることは、とてもじゃないが叶わない。
夜街で遊びなれているちょっと羽振りのいいお金持ち程度では、買うことはおろか
市井の者たちにとって、夜噺には聞くが、触れるどころか見れもしない。
それが「
それがこの日に限っては、最高の衣装を身に纏った姿を誰でも
後半に登城する娼館は、そういった
王都グレンカイナに住むものであれば、子供であっても名を聞いたことくらいはある大手娼館が次々に登場し、場の空気が最高潮に達したところでトリである「
今まで感嘆の声をあげていた観衆の反応が、そこで大きく変化した。
王都グレンカイナトップの娼館、そこが抱える多くの
「うわ、やっぱああしてっと「
「「「リスティアおねーさまー!」」」
「「「ロ・オ・ラ・ちゃああああーーーーーーん」」」
他店の
時に酒場の店員をかって出たりもする三人は、
普通ならそういった「安売り」めいたことを嫌うのが
とてもじゃないが客にはなれないが勝手にファンクラブめいたものを作っているローラの信奉者はまだ理解できるが、リスティアに嬌声をあげる年頃の娘たちがどうしても理解できない
踊り子のような衣装をベースに、三人それぞれ違っていながら統一されたデザインの結構扇情的な衣装に身を包み、緩やかに舞いながら観衆に手を振る三人。
それぞれの首には金糸と銀糸、絹糸を撚り合わされたものがつながっており、長く伸びたそれが後ろに続く
正確には手首に巻かれているので、
なんとも暗示的なこの図式は、もちろん三人の提案を
――俺は飼い主か。
何回やってもこの手の行列になれない
今回の
買ってくださった
――
まあそんなことを今更考えても、もう遅い。
行列は始まってしまっているし、仏頂面で耐えるしかないのだ。
ファルラ嬢はショートライン。
ルクレツィア嬢はマーメイドライン。
二人とも奇をてらったものではなく、上品に仕立てられたドレスに身を包んで、緊張の面持ちで立っている。
だからこそ首から
今回の主役ともなればやはり緊張するのであろう。
常であれば周りに愛想を振りまくであろうファルラ嬢も、醒めた目で周りを見下すであろうルクレツィア嬢も、揃って表情が硬い。
――
こういう時は気の利いたことを思いつかない
高くなった心拍数を自分の魔法で治めるのもなんか違うような気がしている。
――というか無表情の二人の首輪握ってるようなこの絵面って拙くねえか?
要らんことを気にする
「うお、すげえ別嬪さんだけどあの二人、
「やっぱすげえな「
「ほんとだすげえ。
「
蔑んでいるわけではなく、事実として
どうしたものかと
「おーい
「自分とこの嬢全員に首輪付けて紐握るってないい趣味じゃねえか
「
皆
言っていることは張り倒してやろうかと思うことばかりだが、底意はないことも理解できているので引き攣った笑いで流すことにしたようだ。
にもかかわらず、野次を聞いて三人の「
「くたばれ
「くっそうらやましいぞちくしょー」
「お姉さまに何させてるのよあの男!」
「呪呪呪呪呪呪呪呪呪」
男衆だけではなく、なぜか女の子の集団にも好き勝手言われて
もともと温和な人間ではないのだ。
「うるせえ! この
「庶民が「
「御贔屓筋に縊り殺されっちまわあ!」
「つかえねええええええ!」
「うるせえええ!」
高級娼館の
緊張していたファルラ嬢とルクレツィア嬢も、顔を真っ赤にして観衆と言い合っている
感嘆と羨望の声に包まれた他の娼館の行列とは違い、多くの笑いに包まれた「
屈託なく笑う娼婦たちと観衆の笑顔と引き換えに、城に着く頃には
何よりも
シルヴェリア王女殿下のちょっとした暴走は、グレン王国の逸史として扱われることになる。
だがそれは、また別のお話。
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