ランス
「貴方方がここに居るという事は、あの男は裏切りましたか。」
地下への階段上、執事と対峙するランスが問われる。
敵方にとってあまりに突然な襲撃だった為、その質問さえする余裕がなかったのだ。
「あの男が誰の事かは分かりませんが、忠義心で従えたものでない限り心変わりはあると思いますよ?」
ランスは皮肉混じりに執事へ返答する。
その言葉を聞き大きくため息を着いた執事は、手に持ったステッキで地面を叩き、丁寧な振る舞いでお辞儀をした。
「ご教授ありがとうございます。でしたら事が済み次第、襲撃者裏切り者全員、大衆の面前に首を晒して差し上げましょう。」
「貴方意外とよく喋りますね。」
お辞儀をした体制のまま、執事は手に持ったステッキで一直線にランスを突く。
仰け反りかわそうとしたランスの兜を貫通し、兜は執事のステッキでクルクルと回っている。
「もう1段階仕込んであったんですね。」
ステッキの先端は杭のように尖り、攻撃速度も相まって鉄防具程度なら簡単に貫通する鋭さだった。
「ほお。その装備で良くかわせたものです。」
「あまり相性が良いと言えませんね……。」
素早く鋭い攻撃をする執事に、頑強な装備で身を固め、ジリジリと持久戦に持ち込むタイプのランスは相性が悪かった。
その上、執事の攻撃は防具を貫通するので、防具を固めている意味が無くなっている。
むしろ動きが制限されて、かなりのデメリットになっている。
「勿論、防具を脱ぐ余裕は与えませんよ?」
ランスの心を読んだかのように、執事が攻撃を開始する。
執事のステッキは、迎え撃つランスの盾をまるで紙にパンチで穴を開けるかのようにポスポスと貫通させる。
「ああもう!!この盾高かったんですよ!?」
「御請求は主人宛でお願いいたします。支払われるかは判断しかねますがね。」
眉ひとつ動かすことなく冷淡に盾を突き続ける執事。
ただ、ランスもまた数多の戦闘経験により的確に盾を動かし、自分の位置が悟られない遮蔽物として、盾を完璧に活用していた。
「邪魔な盾ですね。」
執事がステッキを盾に刺したまま、上方向にステッキを蹴り上げる。
持ち手部分に捻る大きな力が加わり、思わずランスは盾から手を離した。
手が離された盾は、兜と同じように執事のステッキでクルクルと回っていた。
「これで邪魔な盾は消えましたね。」
ご機嫌な執事を待っていたのは今度はリーチの長い槍。
円錐状に伸びた槍は執事のステッキの倍以上長く、執事からしてみれば盾よりも高圧的だった。
「今度は槍ですか。」
「人間相手に使いたくは無かったんですがね。」
またため息を着きながら執事は槍に向けステッキを振る。
しかし槍の形状が邪魔をし、執事のステッキは滑った。
一転攻勢に出るランスだが、執事の動きが素早く、攻撃は全く当たらない。
「成程。それならこちらも考えがあります。」
痺れを切らした執事は、ランスの槍での突きをかわし、懐に入り込む。
「これならどうですか?」
「そう来ると思ってましたよ。」
ランスは槍を力任せに横なぎし、壁ごと執事を振り払う。
執事は動きを察知して飛び上がり、その横なぎを回避。
そのまま今度は上からランスの頭部目掛けてステッキを突いた。
「これで終わりです。」
「【武装解除】(パージ)。」
ランスが呟くと同時にランスが身にまとっていた鎧が弾けた。
その風圧で執事は大きく飛ばされ、距離を離される。
中から出てきた人間は屈強な男ではなく、小柄で褐色の肌をしたエルフだった。
「ランス!!使うんだったら言え!!かすっただろうが!!」
「すまんブル。緊急だったもので。」
背中を合わせ、互いに正面の敵だけを見ていたため、ブルにはランスの動きが分からなかった。
しかしブルはランスと長く戦い続けていたおかげで、自然と【武装解除】の鎧が飛んでくる方向が分かっており、常にその角度に居ない術を身に付けていた。
鎧は魔法で作られたものであり、弾け飛んだあとゆっくりと消滅した。
「顔だけではドワーフかと思っておりましたが、褐色の肌に小柄で細身な体躯、普通よりも短い耳。そして鎧を魔法で作成する魔力。ドワーフとエルフの混血ですか。」
「だからどうだと?」
「いえ。私は種族差別は致しませんので。ただ貴女はどうやら女性のようだ。主人への良い手土産になりますよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます