アーデルハイト邸突入

 俺は2人が地下に入り、牢に入れられた瞬間からもはや体が勝手に動いていた。




「待って一成さん!!今貴方は冷静じゃない!!」




「ダメだランス!!行くしかねぇ!!」




 2人が止める声なんて聞こえちゃいない。


 屋敷前に止めてあった馬車を持ち上げ、屋敷の門ごと玄関をぶち破る。




「む、無茶苦茶だ……!!」




 ランスがその様子を見て呟くと同時にぶち破った玄関から蟻のようにワラワラと雑魚が湧き出る。




「な、何者だ!!」




「邪魔だ。」




 俺は玄関を塞いでいた馬車を思いっきり蹴り飛ばし、蟻諸共屋敷の向こう側まで吹き飛ばした。




「ば、化け物か!?」




「ひるむな!!止めろ!!」




「お前らの相手は俺だぜ?一成さん!!そのまま突っ切れ!!」




 ブルが俺と蟻共の間に入り、俺の進行を促す。


 一気に背中の安心感が増した。




「ここから先は行かせませんよ。」




 今度は執事か。


 コイツは後ろ手に持ったステッキを取り出し、仕込み杖になっているステッキから刀身を抜き出してこちらに構える。




「私の剣は鞭のようにしなり、その剣先は音速を超えます。」




 そう言って俺の眉間に1突きした後、達人のような腕の動きでステッキを振り回している。




「戦う価値もない。」




「まだ喋れますか。それとも自分が切り刻まれ死んでいることに気付いていないだけですかね?」




「気付いていないのはお前だろう。」




 俺はそういった後、眉間の前、指で挟んでいた剣先をほおり投げる。


 カランという音と共に執事は驚愕していた。




「馬鹿な!?最初の突きは正確に貴方の目線に放ち、貴方から刀身は点にしか見えなかったはずだ!!」




「見えてるだけ遅いんだよ。俺の知っている奴は武器を抜いたことすら分からなかった。お前は俺の前で踊っていただけだ。」




「くっ!!」




 仕込みの刀身を折られても、ステッキに戻しまだ戦おうとする執事の前に、全身鎧で固めたランスが立ちはだかる。




「遅れてすみません一成さん。ここは任せてください。」




「死ぬなよ。」




「意外と冷静じゃないですか。さぁ、早く。」




 ランスが執事に飛びかかると同時に俺は執事の横を抜け、階段前に到着した。




「この辺りか。正確な位置は分からんが、はぁあ!!」




 俺は地面に向けて拳を叩き込む。


 するとズドンという音と共に床板が剥がれ、地下への階段が姿を現した。


 ついでに上に上がる階段は吹き飛んだ。




「……くせぇな。」




 階段の先からする刺激臭。


 その先には巨大な扉がしっかりと閉められている。


 恐らくこの匂いはさっきレインとマーリンを中に入れるために一瞬だけ扉を開け閉めした時漏れだした匂いだろう。


 なんて不衛生な環境だ。


 さっきのレインとの共有で聞こえてきた音も相まって、苛立ちが脳天を駆け巡る。




「こんなもん、人間がやって良い事じゃねぇ。」




 自分が冷静でないことは分かっていた。


 だから俺はタバコに火をつけ、階段を1歩、また1歩と降りる度に、吸って吐いてを繰り返した。


 深く暗い地の底へ1本のタバコの火がゆっくりと降りていく。


 時間が無いのは分かっている。


 だがこのままの心境でここへ入ってしまうと、俺は多分、この中の物全てを破壊してしまう気がした。




「厚いなこの扉。」




 思った以上に厚い扉だ。


 触って叩いて感じる厚さは鉄の扉というより鉄の塊。


 地面でも叩いているかのように反響しない。




「待て!!」




 ブルが抑えていた方では無い方向から湧いて出た兵達が死に物狂いで階段の上まで迫る。


 なだれ込もうとする兵達をランスとブルが階段上、全力で抑えているのが見えた。




「時間もねぇしさっさとぶち破るか。」




 俺は腰を低くし、扉に1度拳を付ける。


 その拳をゆっくりと引いて、タバコを咥えたまま大きく息を吸い込み、もう片方の手を引きながら扉に向かって拳を叩きつけた。




 ズドンという鈍い音とともに目の前の扉に俺の拳の後が残った。


 その衝撃で屋敷全体が不自然に揺れる。


 くの字に折れ曲がった扉は少し隙間ができ、その隙間に手を突っ込んでそのまま力任せに扉を引く。




「お、おい……。厚さ10cmの鉄の塊だぞ……?」




 階段上でこちらを覗いた兵が驚愕の表情を浮かべている。




「一成さん!!分かってるか!?」




「これは殴り込みじゃなく交渉ですからね!!」




 もはやこの程度のことでは驚きもしないランスとブルは、失礼にも俺に向かって分かりきっていることを問うてきた。




「分かってるよ。それじゃあちょっくら、全財産ふんだくって来るわ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る