地下の地獄
「これが約束の女です。残りの男共は私の役者にしますので傷つけないでくださいね。」
数時間前ジェイクスにアーデルハイトへ連絡させ、回収班と思われる無口な連中が森へ到着した。
ジェイクスは、
「裏切れば、素直に死んでいた方が良かったと思えるような苦痛を味合わせてやる。幸い俺はその辺に詳しいからな。」
と脅しておいた。
回収班が馬車に、後ろ手で縛られたマーリンとレインを乱暴に乗せ、そのまま馬車は発車する。
死体のふりをしながら馬車の発車を見送った後、俺達は見えるか見えないかの距離を保ちながら馬車をつけ、数時間走り続けた。
体力がある俺とブルが走り、アルとランス、ジェイクスはジェイクスのグールグリフォンに乗せての移動だ。
「着いたな、帝都。」
俺もブルも作戦前の高揚で息を切らすことなく、行きの半分程度の時間で帝都まで舞い戻ってきた。
「全員、手筈通りに行くぞ。」
「はい。」
「アル。お前が奴を連れてこれるか否かで今回の作戦の成否が決まる。頼むぞ。」
「わ、分かりました!!」
「ジェイクス。お前もついでに自由の身にしてやるが、協力はしてもらうぞ?」
「私はもうアーデルハイト卿を裏切った身。どうせこのまま殺されるくらいなら、せめて最後の大団円を見せてください。ケケケッ。」
「お前の罪を知った上で許してくれたコイツらに感謝することだ。」
街の大通りでアルとジェイクスが別れ、俺たちはアーデルハイト邸へ向かう。
物陰に隠れながらレインと感覚共有し、中の様子を探る。
「こちらへ。」
執事がぶっきらぼうに挨拶しているのが聞こえる。
屋敷へ入り、カツン、カツンと歩く音。
階段の手前でその音は途切れ、地面付近から何かを持ち上げるような音が聞こえる。
そしてまたカツン、カツンと今度は階段を降りる音。
そうか、地下か。
俺達が前回屋敷に来た時、地下への階段は無かった。
そして連れてこられた女たちの痕跡は確認できていない。
地下に連行し、監禁しているのか。
階段を降りきった後、今度はゴゴゴゴという大きな何かが動く音が聞こえる。
恐らく頑丈な扉かなにかだろう。
「入りなさい。」
執事の声が聞こえたあと、レインとマーリンの2人分の足音だけ中に入り、またゴゴゴゴと、今度は後ろで聞こえる。
中の音は……。
「……っクソが!!」
「一成さん。どうかなさいましたか?」
「想像以上に異常だ。早く助けてやらねぇとマズイかもな。」
レインが胃の中の物を吐き出しそうになる嗚咽が聞こえる。
「レイン。大丈夫?」
「ご、ごめんなさい。もう、大丈夫です。」
どうやら吐いたようだ。
「これが、帝国の闇よ。私もそういう経験が無いわけじゃない。帝国の裏ではこれくらい、当たり前にあって、当たり前に行われている所業なのよ。」
「……なんで、こんな事……。」
レイン側から聞こえてくる音。
金属の鎖が動く音。
女の咽び泣く声、悲鳴。
薬物か何かを打たれた女の「私は悪くない。私は悪くない。」と繰り返す独り言。
奥に進んでいく2人に時折、恐らく鉄格子のような檻にしがみついて「助けて!!お願い!!」と叫び散らす声。
奥はもっと酷い音が聞こえる。
俺ですら聞いていて吐き気を催すくらいだ。
「来たな。お前達の順はもう少し先だ。この中で待っていろ。」
女の声だ。
こんな環境の中で普通の女が正常でいられるはずがない。
ほぼ確実に、普通の女じゃないな。
ガチャンと今度は軽い錠前のような音が響く。
入ったと同時に数名に囲まれ、
「助けは!?私達はいつまでこうしていれば良いの!?」
と質問攻めにあう。
「直ぐに来ます。大丈夫です。」
「本当に!?前の子もそう言って結局来なかったのよ!?」
「大丈夫です。大丈夫。」
レインの声が震える。
しかしあろうことか、レインはその場にいる全員を回復し始めた。
「レインあなた何やってるの!?」
「大丈夫。大丈夫ですよ。」
「やめなさい!!」
マーリンが体を使ってレインを止める。
「どうしてです!?」
「あなたが優しいのはよく分かるわ。でもね。回復しても、また壊されるだけなのよ。その分だけ痛みが増える。」
「大丈夫です。一成さんが直ぐに来てくれます。そうしたらみんなここから出れるじゃないですか。」
レインはこんな状況でもまるで聖母のように周りの女たちを励ました。
「誰が助けに来るって?」
最悪だ。
アーデルハイトの声が後ろから聞こえる。
「いいだろう。その一成とかいう奴が来る前にお前を壊してやるよ。」
「やめなさい!!やるなら私を、」
パンッという音と、人が倒れ込む音。
「マーリンさん!!」
「さぁ来い!!」
「レイン!!」
「私は大丈夫、大丈夫です……。」
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