黒幕

「よう。生きてるか?」




 俺とノブナガの壮絶な戦闘で気絶していたジェイクスをランスたち4人も含めて囲む。




「おいマーリン。水出せるか?」




「出せるわよ?」




 俺は無言で気絶しているジェイクスの顔を指さす。


 意図を組んだマーリンがジェイクスの顔面に向かってバケツをひっくり返したような水をぶちまけた。




「ぶは!!」




「おいマーリン。俺のタバコに水当たってるぞ。湿気るとタバコ不味くなるんだよ。」




「文句言わないで。やれって言うからやったんでしょうが。」




「だからってそんなに勢い良くやらんでも……起きたか。」




 ジェイクスは起き上がり状況も分からず怒鳴る。




「お前ら!!もう少し丁寧に起こ……せ……。」




 全員の修羅の顔を見て状況は理解出来たようだな。


 だがそれでも信じられないことがあったようで、




「私の護衛はどうした?アイツらが負けるなんて考えられない!!」




「黙れ。殺すぞ。」




「ヒィ!!」




「聞かれたことにだけ答えれば命は助けてやる。」




 胸ぐらを掴み、軽々と成人男性を持ち上げる俺を見てジェイクスはガタガタ震えだした。




「お前の雇い主は誰だ?」




「言うわけがぁあああ!!」




 俺は質問に答えようとしなかったジェイクスの手の小指を容赦なく握りつぶす。


 レインとアルは顔を背けたが、他の3人はむしろ少し嬉しそうだ。




「で、誰だ?」




「ゔゔっ……。」




 痛みで泣いてるのか恐怖で泣いてるのか分からんが、ジェイクスは鼻水を垂らしながら無様な表情を浮かべる。




「早く答えろ。」




 そう言って俺が薬指に手をかけた時、ジェイクスは観念したように口を開き出した。




「アーデルハイト卿です……。」




「だろうな。」




 そこからジェイクスは俺の質問にすんなり答えていった。




 2人が結託したのは2年前。


 その頃まだ死霊術師ではなかったジェイクスは、劇団の長を夢見て真っ当に役者をしていた。


 無名の役者だったジェイクスにアーデルハイトが目を付け、死霊術を会得させた。


 それからはアーデルハイトの指示の元、定期的に依頼を受けた冒険者たちを殺し、劇団員という名のグールを増やしていった。


 顔と体格が良い女はアーデルハイトが直々に指名し、拉致して屋敷に連れていったという。


 ノブナガとアゲハの死体はアーデルハイトが仕入れた物らしく、流通経路などは分からない。






「んじゃあ俺らの依頼主が今回の黒幕ってことで良いんだな?」




「この男の話を信じるならそうですね。」




 ランスが冷静に答える。


 だがその手は怒りで震えており、兜越しに見えるランスの目は憎しみに燃えていた。




「アーデルハイトからふんだくるだけふんだくって軍に突き出すか。」




「それは難しいでしょう。帝国貴族は厳重な法に守られています。今回の件だとジェイクスが切られて終わりだと思います。」




「ならどうするれば断罪できる?」




「うーん……。現行犯プラス殺人、拉致監禁などの重犯罪なら帝国軍も無視はできないかと思いますが……。」




「……なら、アタシがやるわ。」




 マーリンが手を挙げる。


 俺はどうするか予想が着いていた。


 確かにその方法なら現行犯プラス重犯罪を達成できはするが……。




「アタシがやるって言ったってどうすんだよ?」




 ブルが素朴な疑問を投げかける。


 返答は俺の読み通りだった。




「アタシがわざと捕まってアーデルハイト邸に監禁されるのよ。そうすれば2つとも達成できるでしょ?」




「何!?ダメだ危険すぎる!!」




 そりゃあ止めるよな。


 俺的には何かされる前に救出すればいいだけだから名案だと思うんだが。


 あとコイツ、普通に自分が顔と体格が良い女だと思ってやがるな。




「確かにアーデルハイト卿から女2人を連れてこいという命令は受けております。」




「アタシは本気よ。元々帝国貴族ってのは気に入らなかったの。」




「マーリンが良いなら俺は構わん。何かされる前に俺達で救出すりゃあ良いだけだからな。」




 俺の軽率な発言に他の男3人が顔をしかめる。




「一成さん。流石に今回は私は賛成できない。仲間の命がかかっているんだ。」




「そうだ。俺たちは4人でここまで生き抜いてきた。昨日今日会ったアンタには関係の無い話だろうが、マーリンは俺たちの仲間なんだよ。」




「なら、」




 今まで黙っていたレインが意を決したように口を開いた。




「私も捕まれば文句は無いですか?」




「絶対ダメだ!!レインを危険に晒す訳にはいかん!!」




「ほら、一成さんも同じ事を言うじゃないですか。他の案を考えた方が賢明です。」




 俺はランスに見事なブーメランを喰らう。


 そりゃあダメだわ。全然良くなかったわ。




「アンタ達がなんて言おうと私はやるわよ?これが一番早いし覚悟は出来てる。何よりアタシはアンタ達を信じてるのよ。」




「私もです。それに私も一緒に捕まった方が、何かあった時回復もできますし、一成さんとの感覚共有で場所も分かるはずです。」




 合理的な理由だ。


 レインが共に捕まった方が生存率は大きく上がる。


 だが、レインが危険にさらされるのを俺は許容できない。


 そう思っていた俺の手をレインが握り、優しく微笑みかける。




「一成さんはいつも私の為に命をかけてくれたじゃないですか。今度は私が一成さんの為に頑張りたいんです。」




「でも、」




「私は誰より一成さんを信じています。貴方なら何があっても絶対に助けに来てくれると信じているんです。だからこの思いを無下にしないでください。」




「レイン……。」




 レインは俺達の為に覚悟を決めた。


 なら俺達も覚悟を決めるしかない。


 俺は地面に座り、タバコを咥えながら真剣な表情で全員に言った。




「練るぞ、作戦。」

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