会心の一撃

「一成さん不人気なんですね。」




「さっきの賭けのオッズの事?」




「はい……」




「それに関しては一成がどうこうというより、エクスが強すぎるわね。」




「そうなんですか?」




「過去演習試合ではルシウスを含めた隊長以外には全勝。魔法を使わないという制限付きならルシウスですら引き分けに持ち込むのがやっとだった相手よ。」




「そんなに強いんですか?」




「対人においては最強クラス。ああ見えてフィジカルだけなら人間の到達点と言われているくらい強いのよ。」




「それじゃあ……」




「でも、一成は強いんでしょ?あんたが信じてあげなさいよ。それにエクスにも弱点はあるしね。」




「は、はい!」






 まずは足を使ってみる。盾がデカい分、視界は狭いだろう。


 俺はエクスの周りを盾を持っている左手側へ常に回り込むように立ち回る。




「遅いな。」




 エクスは視界が盾に阻まれているはずなのに常にこちらに盾を向けてくる。




「あの盾、マジックミラーかなんかか?」




 だったらと一気に距離を縮め、インファイトに持ち込もうとするが、俺とエクスの間の盾は消えない。


 何度か盾を殴ってはみるが、鉄の塊でも殴っているのかと思うほどビクともしない。




「さてどうしたものか。」




 あまりにも互いに様子見状態なので、俺は一息つき、タバコに火をつける。




「貴様、なんだそれは?」




 こちらに盾を構えたままエクスは問いかけてくる。


 ということはやはり盾越しでもこちらが見えているという事だ。




「お前があまりにも何もしてこないチキン野郎だから3歩歩いてその重い盾が持てなくなるまで時間を使ってやろうかと思ってな?」




「何だと!?」




 怒っているのは分かるが盾を下げようとはしない。安い挑発に乗るような馬鹿では無いということか。


 と、思ったが盾を構えたままゆっくりとこちらに近付いてくる。




「まだタバコ残ってんだけど、やるの?」




「知ったことか!!」




 そう言ってエクスは走ってくるが、さすがに盾が重いのかあまり早くは無い。あっさりと突進を回避した時、俺の腹部に衝撃が走る。




「ガハッ!!」




 思わず距離を取り、腹をさする。エクスを見ると、左手に持っていた大きな盾を右手に持ち替えており、代わりに小さな盾を左手に持っていた。




「それで殴ったのか……」




 かなりマズい貰い方をした。完全に油断していた所に完璧に入ってしまった。しばらく息が苦しい。


 だがエクスはそんなことお構い無しにもう一度さっきと同じようにこちらに走ってくる。


 盾のせいで奴がどっちの手で攻撃してくるか分からない。




「次はこっちだよ!!」




 咄嗟に避けるが案の定的確に攻撃を貰う。


 だが今度はしっかりとガードしていたおかげでそこまでダメージは貰わなかった。




「チキン野郎はどっちかな?」




 エクスが煽ってくる。相手の体力は無尽蔵なのかあれだけ大きな盾を持ったまま走っても息ひとつ切らしていない。




「大したダメージでもねぇな。」




 1発目が油断していただけで、しっかりと相手の攻撃を見てさえいれば耐えられない訳では無い。それでも鉄製の手甲が曲がるほどの威力を持っている。




「減らず口を。」




 俺が呟いた言葉が聞こえていたようだ。


 エクスはもう一度盾を構え直し、こちらに突進してくる。しかし今度はさっきまでとは違う。


 盾の角度を鋭角にし、地面を擦るように向かってくる。


 前の2発よりスピードが1段階早い。




「オラァ!!」




 エクスは俺と接触する瞬間、地面を削りながら力任せに盾をカチ上げた。


 遠心力とエクスの筋力で勢いを増した盾を防ごうと、咄嗟に足を使って応戦してみるが、反撃虚しく俺の体は大きく空中に打ち上げられた。




「オーライオーライ!」




 地上でエクスが待ち構えている。迂闊に落ちると落下速度も相まって骨を砕かれるだろう。


 俺は空中で体勢を立て直し、エクスが待ち構える盾に着地しようとする。


 だが奴はそれを待ってましたと言わんばかりに俺が足を付けようとした瞬間大きい方の盾を引き戻し、小回りの効く小さい方の盾で俺の脇腹を強打した。




「うぐっ!!」




 大盾に姿を隠していたのせいで奴がどちらの方向から攻撃してくるのか読めず、空中で避けることが出来なかった俺はそれを受けるしか無かった。当たった脇腹からの嫌な音。


 フィールドの中央まで吹き飛ばされ、受け身も取れず地面に転がる。




「良い音が鳴った。これでアバラは何本か折れただろう。」




 エクスに観客が歓声を浴びせている。


 勝ち誇ったようなエクスを他所に、倒れた俺の目の前に1発目のとき落としたタバコが目に入った。




「勿体ねぇな。」




 地面に落としたまだ残っているタバコを拾い上げて火を付け直し、大きく息を吸い込む。




「まだ立つとは見上げた根性だ。だが、まだまだ行くぞ!!」




 エクスが叫びながらこちらに突っ込んでくる。


 幸い真っ直ぐに来てくれるおかげでタイミングが取りやすい。ここまでダメージを受けると持久戦に持ち込むのはあまり利口では無い。


 ならばと俺は目を閉じ、拳に力を集中した。




「な、なんだ!?」




 観客がざわついているのが聞こえるが、そんな事はどうでも良い。


 呼吸を正し、力が最も自然体で拳に力を込めることが出来る型で拳を放つ。


 俺は突っ込んでくる盾に向かって今まで戦ってきた中で最も破壊力の出た正拳突きを繰り出した。




「喫煙者ってのは単純でな。タバコ吸ってる時に邪魔されんのが一番嫌いなんだよ!!」




「な、何だこの威力は!?このままでは盾が持たん!!」




 時間がゆっくりに感じる。攻撃のタイミングは完璧だが、まだ盾には届いていない。


 エクスの盾の寸前、俺は拳に違和感を覚える。


 拳が盾に届かない。


 あと数センチ、あと数ミリのはずだ。なのに磁石の反発のように盾に触れる前に押し返される。


 それと同時にふたつの力の衝撃で地面がえぐれ、土煙が周囲を覆う。




 両者フィールドの端に吹き飛ばされ、気付いた時にはルシウスから借りた手甲諸共俺の拳の骨は粉々になっていた。

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