試合開始

「明日の昼頃、宿まで迎えにあがります。」




 そう言って一同は退散して行った。


 俺とレインは酒場に取り残されたが、その後すぐに部屋に食事が運ばれてきた。


 食事代、宿代まで全てルシウスが既に支払っているとの事だった。どうやら宿は隣接しているようで、宿に行くと直ぐに部屋へ案内された。




「んー、マジかルシウス。」




 部屋は決して広くはなく、ベッドが1つ。セミダブル位か?


 今日までレインと一緒のベッドで寝たことは無いんだがな……


 他に2人がけソファタイプの椅子が1つと小さめの机。それだけで部屋はいっぱいだった。




「俺はそっちの椅子で寝るからベッドを使ってくれ。」




「いえいえ、明日戦いを控えているんですから一成さんが使ってください。」




 押し問答を小一時間した結果、結局同じベッドで寝ることになった


 俺は良いんだがレインが良いのか?という疑問が浮かんだが、不用心なのか、ただそういう事を知らないだけなのか、はたまた俺が信頼されているのか「おやすみなさい」と言うと、直ぐに寝息をたてはじめた。




「まぁ、あれだけはしゃいで居たからな……」




 寝ているレインの頭を撫で、そのまま俺もゆっくりと眠った。






 翌朝目が覚めるとレインは俺の腕を枕替わりによだれを垂らしながら寝ていた。レインが目を覚ますと、眠気まなこで力無く。




「おはようございます……」




 と言ったあと目を擦りながら段々と現実に意識を取り戻し、




「す、すみません!!」




 と、謝って来た。






「昨日はよく眠れましたか?」




 イケメンスマイルで迎えに来たルシウスにデコピンしてやった。




「イッタ」




「朝からいいもん見れたからこのくらいで勘弁してやるわ。」




 俺の後ろで恥ずかしそうにしているレインを見ながら同行してきたソールがレインに耳打ちで。




「んで、どこまでいったの?」




「ふぇ!?」




 というような会話をしていた。


 ルシウスは額を擦りながら今日の決闘の説明をしてくれる。




「場所は王国の中庭で行いたいと思います。」




「てことは観客いっぱい居るのか?」




「そうなりますね。」




 あんまり注目されるのは好きでは無いんだがな。


 どうやらある程度の広さを確保するにはそうするしかなかったらしい。




「演習試合という名目で行います。レインさんが居れば大丈夫だと思いますが、出来れば死なないでください。


 どちらにしても私が決着が着いたと判断した時点で終了とさせていただきます。」




「無いとは思うが、相手に贔屓するなよ?」




「私はどちらかと言うと貴方に共に来ていただきたいので、貴方に贔屓してしまうかもしれませんよ?」




「それは是非にも。」




「……本当に抜け目のない人だ。」




 宿から城門まではさほど離れていなかったので、説明を受けている間に城へ到着した。




「待っていたぞ。」




 対戦相手のご登場か。


 カラカラと滑車が回り、エクスの後ろの桟橋が下ろされる。エクスの後ろを着いて歩くように俺たちは城内へ入っていった。






 城の中庭に着くと、大きな石畳のフィールドが用意されていた。普段はここで訓練を行っているらしい。


 それを取り囲むように多くの鎧を着た兵士達が待機している。賭け事を先導している奴も目に入った。




「オッズは副隊長1.2倍!!


 謎の旅人50倍だ!!」




「なら私は、謎の旅人とやらに1万かけましょうか。」




「これはこれはルシウス様。ドブに捨てるようなものだと思いますがいいんですかい?」




「構いませんよ。さて一成さん、昨日の食事代と宿代、返してくださいね?」




「お前の方がよっぽど抜け目ねぇよ。」






 俺とエクスはフィールドに上げられる。


 兵士が2人がかりでフィールドに上がりエクスに巨大な盾を渡すが、その盾を彼は片手で軽々と扱ってみせた。




「おい、ルシウス。」




「何でしょう?」




「お前の手甲と足具を俺に貸してくれ。」




「構いませんが、ただの支給品の物ですよ?」




「験担ぎだよ。」




 さすがに少しサイズが合ってないか。だがこれで、あの盾を直接殴っても問題ないな。




「それでは、討伐隊副隊長エクス対旅人一成の試合を始めます!!」




 ルシウスの掛け声とともに周囲が一気に静かになる。


 レインはソールと共に少し高くなった位置にあるベンチに腰掛け観戦するようだ。


 ルシウスが腕を上に振り上げ、振り下ろすと同時にエクスが盾をこちらに構える。




「始め!!」

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