やかましい巫女
「街で買い物するのも、人と一緒に歩くのも初めてなのでとっても楽しいです!」
笑顔ではしゃぐレインに俺も賛同しながらも、街の隅の風景が目に映る。
活気があり栄えている大きな通りの脇道。汚れた布を頭から被り、そこからこちらを羨ましそうに見つめる人間達。
その中には子供も混じっているが、四肢は弱々しく明らかに貧困状態。そういう人間が街の大通りの脇道に居るのだ。
反面大通りを悠々と歩いているのは身なりの良い者達と兵士、旅人など。
立ち並ぶ家々は豪華な作りのものが多く、貧富の差が大きいことは考えるに容易い。
はっきり言って良い状態の街では無い。あまり長居はしたくない街だ。
「だいぶ時間も潰したしそろそろ待ち合わせの店に行こうか。」
「そうですね。」
俺が元いた世界ではこういう風景はあまり見慣れなかったからか街を歩く時かなり気になってしまう。
レインは目が見えないから良いものの、目が見えていたら恐らくすぐに駆け寄って持っている物を全て渡していただろう。
待ち合わせの店は酒場というのが正しいのか、賑やかな店だった。着いた頃には夕方になっていて旅人達やら兵士やらがゾロゾロと入ってくる。
ウェイトレスの女性にルシウスと待ち合わせしていると話すと、話が通っているのかすぐに2階へ案内された。
「お待ちしておりましたよ。」
2階の個室へ入ると、ルシウスと街までの帰路には居なかった兵士が1人。小さくなっているラックと見知らぬ女性が座っていた。
「あなた達が一成とレイン?」
見知らぬ女は開口一番割と失礼な態度だ。品定めしているようにも見える。
「私は反対です!!獣人族は良いにしてもこんな何者かもわからない者たちを同行させるなんて!!」
「失礼だぞエクス。」
兵士も兵士で失礼な態度だ。突然の大声でレインの体が強ばる。
その様子を見て結構イラついた俺は、空いている席にまずレインを座らせ、椅子に浅く座り、あえて足を机の上に乗せてやった。
「で、誰だテメェらは。」
「んな!?」
その場にいる全員が驚きを隠せない様子だが、レインだけは見えていないので小さくなって座っている。
「一成さん、あなたはもっと紳士的な方だと思っていたのですが?」
「いやー、下手に舐められたら後が大変だと思って。」
「賊かなにかですかあなたは。」
「一成さんは賊じゃありません。優しい方です。」
レイン、賊じゃないことは多分みんな分かってるよ…
そしてレインは大勢の前で声を出した後、恥ずかしそうにまた縮こまる。
「ははは!!面白い人たちだねルシウス。」
見知らぬ女性は俺たちのやり取りを見て元気に笑っている。
兵士の方はまだ不服そうにこちらを睨んでいる。
さすがに俺も机の上から足を下ろして椅子に深く座り直し、タバコに火をつけルシウスに質問する。
「改めてこの人たちは何者なんだ?」
「ご紹介が遅れて申し訳ございません。私の隣に座っている彼は、討伐隊副隊長のエクスです。」
紹介された兵士はゆっくりと立ち上がり、何も言わずこちらに会釈する。その態度はやはり不服と言った感じだ。
「そしてアタシが帝国皇帝の娘であり、君たちにこれから守ってもらう巫女、ソールだよ!!」
俺の印象では巫女と言えばもう少しおしとやかなイメージなんだがやたら元気の良い奴が出てきた。
ていうか今帝国皇帝の娘って言った?じゃあ実質この国の姫様って事か。あとなんだかアホそうだ。
色々と先が思いやられる。
「あと、こっちの剣聖様は小さい頃からの幼馴染だよ。
アタシ彼以外に気心知れた友達居ないしみんなも仲良くしてねー!」
確かに見た目はみんな大して変わらない、20歳前後と言ったところだろう。こいつはそれにしては落ち着きが無いがな。
ちなみに完全に空気と化していたラックはソールを知っていたようで、状況が呑み込めないのと、めちゃくちゃ緊張していて会話に入れなかっただけだったらしい。
「隊長、本当に私よりこの男の方が実力があるのか試させてください。」
エクスが机を叩きながら抗議する。その音にレインがビクッと驚いている。
「一成さん、どうですか?私もあなたの実力が如何程か見てみたい」
「そっちが本音だろ?」
ルシウスは図星をつかれたのか頭をポリポリとかいている。
「私がこいつに勝てば私を旅に同行させてください。」
成程、自分が同行できないのに知らない奴が同行するのが気に食わないのか。
「俺は無理に旅に同行したいとは言っていない。俺が勝ったらプラスして何か貰わないと割に合わないんだが?」
「分かりました。では、私が知っている限りの霊薬エリクシールの情報を差し上げましょう」
ルシウスの野郎、こういう時の交換材料に意図的に情報を隠してやがったな。
更にはここまで全部ルシウスの筋書きの可能性もある。
だが旅立つ前にエリクシールの情報が聞けるのは有難い。
「良いだろう、乗ってやる。」
「帝国軍討伐隊副隊長の名に恥じない戦いをしてみせますよ。」
もう既に勝ち誇ったような顔のエクスが腹立たしかったが、恐らく実力は俺より上だろう。
レインとラックはその場のノリに着いていけずオロオロとしているが、ソールは
「いいぞー!!やれやれー!!」
と、無意味に俺たちを煽っていた。
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