第31話

         ◆


「えっ、また旅行行くの⁉」

「うん。白鳥さんが連れて行ってくれるんだ」

 夏休み、また逢坂君の家にホームスティに行く。

 京都や奈良にもまた行けるし、仏像が見られる。

「いいな~、僕も行きた~いっ」

「父さんは仕事があるでしょ」

「むぅ。……何で、サラリーマンの休みはお盆とお正月しかないの~? 部長のバカー、専務のハゲー、社長の分からず屋ー」

 何、子どもっぽいこと言ってんだか……。

 ちなみに、父は課長である。部下にこんな姿は見せられない。


 旅行一日目は逢坂家で過ごした。

「タイムスリップって、一度してみたいと思わない?」

 夏休みの宿題を片付けながら、白鳥さんが切り出した。

「タイムスリップ? 何、非現実的な事を言っておるのだ。今の科学技術じゃ到底無理だ。児島君の話だと、たとえタイムマシンが作れたとしても実用はされないらしいぞ。過去を書き換えることになるし、タイムパラドックスがなんたらかんたら……」

 その児島君と先輩は、いつもどんな会話をしてるんだ。

「夢が無いわね。もしもの話よ」

「わいは平安時代に行ってみたいなぁ。そこで、歌人と話すなんて楽しそうやん。紫式部にも会ってみたいわ」

 古典好きの逢坂君らしい。

「私は幕末に行きたいわ。新撰組が格好良いのよ」

「君はアニメの見過ぎだ。実際に幕末なんぞ行ってみろ。斬られて終わりだぞ」

「じゃあ、あなたはどうしたいのよ?」

「どうもしたくはない」

 きっぱりと言った。先輩はたまに現実的なのだ。

「……もういいわ」

「宇宙はどうなん?」

「どうせ、仏像の作られる過程を見たいとかでしょう」

「うん、それはそうなんだけど。……僕は、タイムスリップが出来たとしても、昔の人と話そうとか何かしようとはしないと思う。ただ見てるだけでいいんだ。物語の主人公みたいに格好良いことなんて出来ないから」

 僕の人生なんて平凡でいい。

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