第30話

        ◇


 心霊研究会に二度目の夏が来た。

「今日は心霊スポットの調査に行く」

 毎度のことながら、唐突である。

「場所は?」

「駅前から少し離れた所に、未だ取り壊されていない廃病院があるだろう」

「ええ、知っているわ」

「最近、そこに幽霊が出るという噂を聞いたのだ。近場にそんなスポットがあったのだ。行ってみない訳がなかろう」

 去年は夜の学校。今年は廃病院。楽しみである。

「次は、非常ベルを鳴らさないようにしなさいよ」

「二度も同じことはしないよ」

 それにしても、その土地の権利者は阿呆か。

 廃病院なんて、いつまでも放置していたら霊の溜まり場になってしまうのに。


 深夜。

 今日も徹夜だが、今は夏休み、何も問題はない。

 廃病院はセバスチャンの車で、数十分程の距離だ。

 廃病院に着いたが、そこには先客がいた。

 黒塗りのベンツだ。運転席に誰か座っている。

 廃病院の敷地内にも一人いた。背格好からして、私と同じくらいの歳だと思う。その人は、廃病院の屋上を見詰めてぼうっと立っていた。

「……あ、あの人、誰ですかね?」

「さあ、分からん。……聞いて来るか」

 先輩は車から出て、全く臆することなくその人に近付いていった。

 先輩が廃病院に入ろうとした時、ベンツから黒服の男が出てきて、先輩に話し掛けた。

「何話してるのかな」

「ここからじゃ聞こえないわね」

 少しして、先輩が戻って来た。

「調査は終わりだ。興が削がれた」

「えっ、どうしたのよ、いきなり」

「……ここで自殺者が出たんだと。あまり多くは語りたくないから帰ってくれ、と言われた」

 そんなニュースは知らないけれど。今時、自殺ではニュースにならないのか。

「じゃあ、あの人は何なんですか」

 橘君が廃病院の中にいる人物を指差して言う。

「詳しい事は分からんが、自殺者の遺族だろう」

「……そうですか」

「じゃあ、幽霊の正体はその自殺者ってことね」

「いや、おそらくはあそこに突っ立っている人物を幽霊だと勘違いしたのだろう。あんな所で、ぼうっと突っ立っておるのだ。見間違うのも無理はない。……それにしても、自殺はいかんな、自殺は。生きていれば、もっと楽しいこともあったろうに」

 世の中には、先輩の様に考えることが出来ずに、自ら命を絶ってしまった人が大勢いるのだ。

 そう思うと、虚しさを感じた。


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