第29話

    ◆


 春休みは終わり、新学期になった。

 僕と白鳥さんは二年生に、先輩は三年生にそれぞれ進級した。クラス替えで、白鳥さんとクラスが分かれた。

 学年は上がっても、僕達は相変わらずだったけど。

「こんにちは、先輩。ついに受験生ですね」

「そうだな。君達は中だるみの時期か」

「……嫌な事を言わないで下さい」

「まあ、何はともあれ……」

 そう言って、手の中に飴玉を出現させた。先輩お得意のマジックである。

「今年度も宜しく頼むぞ」

 飴玉を差し出しながら言った。

「一年も経つと、さすがに見飽きたわね、そのマジック」

「あっ、そういえばまだ、そのトリックを教えてもらってないですよ」

 いつか教えてもらおうと思っていた。

「そんなもの、自分で考えろ」


 結局、最後までトリックは分からなかった。

 インターネットで調べたら負けたみたいになるので、それはしなかった。

 いつか、ふと思い付くかもしれないと思った。

 

 始業式から数週間が経った。

「今日は新入生の勧誘をする」

 先輩が突然言い出したのだ。

「いきなり何ですか。ていうか、そもそもこの同好会の存在自体、知られてないと思いますよ」

「だから、今日はポスターを作って来たのだ。悔しい事に、児島君の科学研究会にはもう二人も新入生が入ったそうだ。我々も負けてはおれん」

「何で科学研究会をライバル視してるんですか」

 科学と心霊は相容れないけれども。

「そこで、どうしたら新入生が我が研究会に入ってくれるかと、私なりに考えてみた」

 多分、ろくなアイデアじゃない。

「マスコットキャラを作ることにした。……最近はご当地ゆるキャラとかいうのが人気らしいからな。それに乗っかってみたのだ」

 ほらね。何で、そうなるんだが……。

「それで、マスコットキャラとやらは何処よ」

「このポスターの中に描いておいた」

 先輩は持っていたポスターを机の上に広げた。

「ほら、これだ。私が昨夜徹夜で考えた、その名も『心霊君』だ。どうだ、愛らしかろう、ゆる可愛いかろう」

 ポスターの下の方にイラストが描かれていた。魔法使いの帽子を被ったお化けが舌を出している。お世辞にも上手いとは言えない。ポスターの字は無駄に上手い分、ミスマッチ度が上がっている。

「……これが徹夜のクオリティですか」

「小学生の落書きって感じよね」

「何を言うか。児島君は中々良いと褒めてくれたぞ」

「……適当に言っただけでしょう」


 そのポスターは一学期の間、掲示板にずっと飾られていたが、効果は全く表れなかった。

 白鳥さんが新入生を(脅して)連れて来たことがあったが、その人達は一、二回で来なくなってしまった。

「やっぱり脅しは駄目だよ」

「全く、私がせっかく入れてあげたのに」

 本人は望んでなかったと思うけどね。

「人数が多過ぎても面倒だからな。実際、三人くらいが一番丁度良いのかもしれん」

「アニメで、キャラが多過ぎると上手くまとまらないみたいなこと?」

「まあ、そんなものだ」

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