第32話

その日の夜、逢坂君に呼び出された。白鳥さん抜きで。

「私達に話とは何だ? 白鳥後輩には聞かれたくない話か?」

「そうや。……君らに知ってもらいたい事があるんや」

 逢坂君は真剣な顔で話し始めた。

「まず、これを見てみぃ」

 逢坂君は一枚の写真を取り出して、僕達に見せた。

「小六の美和子や。一緒に写ってるのが美和子の両親」

 小学生の頃の白鳥さんは、たしかこんな顔で笑っていた。満面の笑顔。

「……本当に白鳥後輩か? 今とは別人じゃないか」

「本当です。先輩は小学校別だったから知らないでしょうけど、小学校の頃の白鳥さんは本当にこんな感じだったんです。黒魔導師でもありませんでした」

 最初はその変わり様にただただ驚いていたが、今となってはもう慣れてしまった。僕にとっては、今の白鳥さんがスタンダードになってしまったのだ。

「何で、いきなり性格が変わったんと思う?」

 白鳥さんと話していてなんとなく気付いていた。

「……両親が亡くなって悲しかったから」

 現実を受け入れたくないから、自分の殻に閉じ篭った。

「じゃあ、何でイギリスに行ったんと思う?」

「……イギリスにいるお祖母さんに会うためだよね」

「……ああ、そういうことか」

 先輩は何か分かったようだ。鋭い。

「どういうことですか、先輩?」

「白鳥後輩の祖母君は一流の黒魔導師だそうではないか、本当かどうかは怪しい所だがな。でも、白鳥後輩にそう信じ込ませたということは、祖母君はそれなりの力は持っている。……例えば、優秀な心理学者なら催眠術で人格を書き換えることも可能だ」

「な、何でそんなことをするんですか?」

「心を閉ざせば、悲しまなくて済むからや。今までの優しい美和子じゃあかんねん」

 小学校を卒業しようという歳の女の子に、両親の死はどれ程辛いのか……。

「で、逢坂君。君は私達に何をして欲しいのだ。白鳥後輩を元の性格に戻して欲しいのか、それとも今のまま変わらずに付き合っていって欲しいのか」

 先輩は淡々とした口調で尋ねる。

「……わいかて、何が正しかったのかなんて分からへんよ。自分がどうしたらええんかも分からへん。……なあ、鷲羽さん、わいはどうしたらええんかな?」

 逢坂君が自嘲したように聞き返す。

「そんなことは知らん。自分で考えろ。……私が思うに白鳥後輩は君が考えている以上に強い子だよ。心配せずとも、子どもは勝手に育つ。親バカいや従兄妹バカかね、君は。……性格は変わっても白鳥後輩は白鳥後輩だ。今までと同じ様に接するのが良かろう」

「……そっか」 

 この時、先輩が居てくれて良かったと思う。  

 自分一人では、何も言えなかっただろうから。

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